モンゴルで日本の国際運転免許証は通用しない ― ジュネーブ条約とウィーン条約の分断
モンゴルのバイクツーリング免許事情としては、日本で1番詳しい記事だと思います。世界的にみてもないかも。(笑)
モンゴルの交通安全法と交通規則の条文まで当たって書いてるので。
結論から
モンゴルでバイクを借りることはできます。実際に借りれました。
しかし、日本の国外運転免許証(いわゆる国際免許証)でモンゴルを運転する資格は、ない。
じゃあ公道以外ならいけるんじゃ??と思うところだが、その理屈は条文から出てこない!!
公道かどうかの以前の話でした、そもそも走りたい道が公道かどうか、判断する術もない。
2026年6月にレンタル業者への問い合わせを始めて、8月にウランバートルでバイクを借りました。

準備の段階で免許の要件を調べ始めたら、思ってたより問題が。(笑)
先に要点だけ書きます。
- 日本は1949年ジュネーブ条約、モンゴルは1968年ウィーン条約の加盟国。この2つは別系統で、相互に有効じゃないです
- モンゴルの国内法には、非加盟国が発行した免許・国際運転免許証での運転を名指しで禁止する規定があります。「規定がなくて曖昧」なんじゃない
- 在モンゴル日本国大使館も、日本の免許証も国外運転免許証もモンゴルでは使えないと明記してます
- この穴を埋める代替手段は、調べた限り存在しない
- それなのに、レンタルは成立します、しました。照会した業者のうち回答をくれた2社は、条約の不整合を具体的に指摘した上でなお「問題ない」と答えてます。ただしどちらも「合法だ」とは言わず
- 日本の正規ツーリングツアー会社も、条約の不整合を認識した上でツアーをやってます。彼らの整理は「免許」じゃなくて「公道外を走ること」でした。ただし「だから合法」とまでは書かれてない
- そしてその整理が使えるかは別問題。禁止規定は “in Mongolia” としか書いてなくて、道路上に限るとは書かれてない。つまり公道かどうか以前の話かもしれない
- そして実際に借りたとき、免許は一度も見られなかった
最後の2行が、この記事で一番書きたいこと!
制度の側は「公道かどうか以前」で詰んでいそう、そして現場では何も確認されない。
このズレが本題です。
「国際免許を取れば世界中で運転できる」は誤り
まずは皆さんの前提を壊すところから(笑)
日本の運転免許センターで2,350円ほど払うと、A6サイズのグレーの冊子が出てきます。
これが国外運転免許証。英語では International Driving Permit、略してIDP。
世界中でこれを見せれば運転できる、と思ってる人は多いと思います。
私もそう思ってました。。
これが違うんですよね。この冊子が通用するのは、日本と同じ条約に入ってる国だけ!!
そのことは、冊子の表紙に印刷されてる。(もらってもほとんどの人は読まないですよね?? 私はいままで5回ぐらい発行してますが、、ちゃんと読んだことなかったです笑)

この冊子が何に基づいて発行されたかは、表紙にちゃんと書いてある。(発給地は伏せてます)
道路交通に関する国際条約は、歴史的に3世代あります。
| 条約 | 通称 | 日本 | モンゴル |
|---|---|---|---|
| 1926年 パリ条約 | 国際自動車交通条約 | ― | ― |
| 1949年 ジュネーブ条約 | 道路交通に関する条約 | 加盟 | 非加盟 |
| 1968年 ウィーン条約 | 道路交通に関する条約 | 非加盟 | 加盟(1997年12月19日加入) |
見ての通り、日本とモンゴルは一度も同じ条約に加盟してない。なーぜなーぜ、、
条約の仕組み自体はシンプルで、
加盟国は「同じ条約に入ってる他国が発行した免許・IDPを自国内で認める」という義務を負います。
つまり、その義務は同じ条約の加盟国に対してしか発生しない!
モンゴルは1968年ウィーン条約の加盟国だから、ウィーン条約加盟国が出したIDPを認める義務がある。でも日本はウィーン条約に入ってない。
だからモンゴルには、日本のIDPを認める義務がそもそも発生しない。
「義務がない」で終わらない ― 国内法に禁止規定がある!
ここまでなら「条約上の義務はないけど、国内法で受け入れてる国もある」という余地が残るのでは?と思う人もいるはず。
モンゴルは、そうじゃないです。
モンゴルの交通安全法(Замын хөдөлгөөний аюулгүй байдлын тухай)に、そのままの条文があります。モンゴル政府の法令データベース legalinfo.mn で公開されてる英訳から、第17条をみてみると↓
17.3. Foreign citizens, who hold a driving license issued by a member country of the Vienna Convention on Road Traffic or international driving license consistent to such Convention, may drive the relevant category of vehicle for 1 year after entering in Mongolia.
17.4. Motorized vehicle driving by an international driving license issued by a non-member country of the Vienna Convention Road Traffic shall be prohibited in Mongolia.
17.3 が、ウィーン条約加盟国の人に入国から1年の運転を認める条文。
そして 17.4 が、非加盟国が発行したIDPでの運転を prohibited(禁止)と書いてる条文です。
日本のIDPは、この17.4に真正面から当たります。つまり「日本のIDPについて何も書いてない」んじゃなくて、名指しで非加盟国IDPを排除する条文が存在します。
それと、ここで気づいた人もいると思います。この条文、“prohibited in Mongolia” と書いてあって「道路上で」とは書いてない。
そう、読み方によっては場所を問わず効くように見えます。ここは後半でもう一度、正面から扱います。
legalinfo.mn の英訳には “Unofficial translation” と注記があります。正式なのはモンゴル語版のほうです。
大使館の見解が一番はっきりしてる
一次情報として一番はっきりしてるのは、在モンゴル日本国大使館の案内(令和5年3月1日付)。日本とモンゴルはそれぞれ別の条約を批准してるため、日本の運転免許証も国外運転免許証もモンゴル国内では使えない、と書かれてます。運転するには、
- モンゴルに3ヶ月以上滞在した上で
- モンゴル警察庁ライセンスセンターでモンゴルの免許を取得する(手続き・試験はモンゴル語)
必要書類の例には「日本の自動車運転免許証の原本、コピー及びモンゴル語訳」に加えて、「長期滞在者であることを示す外国人登録証」が挙がってる。
自国の大使館が「使えない」と書いてる。これ以上はっきりした材料はない。
潰した選択肢を全部並べる
「じゃあ何か抜け道はないのか」と考えて、思いつく限り調べました。
全部塞がってました(笑)、せっかく調べたので全部書いときます。
| 検討した案 | 結論 |
|---|---|
| 渡航先を韓国や米国と偽ってIDPを取る (「モンゴル行きだと窓口で断られるのでは」という前提で、ネットで時々見かける話) | そもそも前提が間違ってる。 日本のIDPは渡航先によって発行の可否も内容も変わらない。必要なのは免許証・写真・手数料・渡航を証明する書類だけで、窓口で「モンゴルに行く」と言っても普通に交付されます(口頭で注意される可能性はあるけど、拒否じゃない)。 しかも出てくる冊子の中身は完全に同一。嘘をついて得られるものはゼロで、リスクだけ残る |
| ウィーン条約ベースのIDPを取得する | 構造的に無理。 IDPは「自国が加盟してる条約に基づいて」発行される。日本の免許を持つ人が取れるのはジュネーブ系だけ。ウィーン系を取るには、ウィーン条約加盟国の居住者としてその国の免許を持つ必要あり |
| モンゴルの免許を日本にいるうちに取る | 申請資格がない。 必要書類に「モンゴルに3ヶ月以上滞在したことを示す外国人登録証」が含まれる。現地でも数日間の滞在じゃ無理だし、しかも試験はモンゴル語 厳しい(´;ω;`) |
| オンラインで買える民間発行のIDP | モンゴルツーリング業者のサイトが案内してた。これで足りるように読める案内になってる。 ただしこれは1949年ジュネーブ条約の「様式に倣った」民間企業の商品で、条約に基づいて発行された公文書ではない(発行元自身が「翻訳文書」と書いてる)。加えて、事故った時に保険適用してもらえるかは全く別の問題(後述) |
| 在日モンゴル大使館に照会する | 公式見解(=ウィーン条約準拠の免許が必要)しか返ってこないと判断して、やってない |
それでもレンタルは成立する ― 業者3社に聞いた
ここからが本題。
制度の話は「無効」で決着した。じゃあ実務はどうなってるかというと。
ウランバートルでバイクを貸してる業者に、2026年6月、直接聞いてみました。
聞き方は伏せず、
「モンゴルはウィーン条約の国だけど、日本はジュネーブ条約だけの国。問題ない?」
と、条約名を出して具体的に質問しました。曖昧に「国際免許でいいか」と聞けば曖昧な答えが返ってくるのは分かってたので、逃げ場のない聞き方を。
返ってきたものが以下。業者名は伏せときます。
A社(実際に借りた業者)
条約の不整合を指摘した上での回答は、こうだった。

ok no problem
4単語。 軽っw
C社
まず「国際免許は持ってくべきか」と聞いたら、

Yes its strongly recommended
と返ってきました。強く推奨すると。推奨とは(笑)
そこで同じように条約の不整合を指摘してみたところ返答は以下。
Usually ok yes
Usuallyねぇ(笑)okとだけ言わないのが何とも。
B社
日本語圏でも名前の挙がる大手です。免許と保険についての質問を、条約の話まで含めて長文で送った。返ってきたのは、

※ 社名・電話番号・担当者名・アイコンは伏せています。
All our motorcycles are fully booked for your dates.
免許の質問には答えないまま、満車の連絡だけで終わりました。(笑)
「Usually」が全部を語ってる
3社に聞いて分かったのは、誰一人として「合法」とは言わなかったということ。
C社の回答の変化が象徴的だった。「国際免許を持ってくるべきか」には「strongly recommended(強く推奨する)」と即答しました。ところが条約が噛み合ってないと具体的に指摘した途端、「Usually ok」になった。
この “usually” という一語が、業者自身もここを確実性のない領域だと分かってることを示してると思います。
「いつもは大丈夫」は、法的な回答じゃないです。過去の実績についての観測で、資格についての言明じゃない。
A社の “ok no problem” も同じ。何が problem ないのか、いいません。東南アジアとかインドとかこんな感じですね(笑)
まぁ、ちゃんと答えれないんでしょうね。彼らが保証できるのは自社の受け入れ基準までで、モンゴル法上の運転資格はよくわかってない?し、運転資格発行権限は持ってるわけでもないし。
つまり業者への照会で確認できたのは、
- 「合法的に運転できる」こと … 確認できてない
- 「レンタル会社は貸してくれる」こと … 確認できた
後者だけ。
ただ、副次的な効果はあるのかなと。
条約不整合を明示した上で問い合わせてるんで、私が虚偽の申告をしてない状態にはなる。(笑)
契約上どういう効果を持つのかまでは分かりませんが、少なくとも警察に何か聞かれたときに「隠してた」構図にはなりません。それだけの価値はあるかな。
なんで業者がこの運用をするかというと、業者の確認は本人確認で止まってて、その先の法的リスクは全部借り手に移ってる と思ってるはずなので。
業者からすれば、確認を厳格にする経済的な理由はない。かな。
条約の区別を示したうえで、民間発行IDPを案内する業者がいる
B社は免許の質問に答えなかったけど、サイトにはこう書いてありました(2026年6月時点)。
「ウィーン条約非加盟国(日本を含む)の免許保持者には国際運転免許証が必要である」と。そして例として、オンラインで購入できる民間発行のIDPサイトへのリンクが貼られてました。
原文はこうです。
Countries that are part of the the Vienna Convention may drive in Mongolia with their national driving licenses. Here is the list of countries concerned: (国連条約集の締約国リストへのリンク)
For all others, you must have an International Driving Permit, which you can easily obtain online from websites such as this one: (オンラインでIDPを売っているサイトへのリンク)
1文目は正しいです。さっきの17.3が「ウィーン条約加盟国が発行した免許」でよいと書いてるので、ウィーン条約国の人は自国の免許だけで足ります。しかもリンク先は国連条約集の公式な締約国リスト。つまりこの業者、条約の区別をちゃんと分かってる。
ただ、崩れるのは2文目。
「それ以外の人はIDPが必要」と言っておいて、どの条約のIDPなのかを言わない。そして「オンラインで簡単に取れる」と、民間サイトを名指しで例示してる。
私が長文の問い合わせを書いたのは、まさにこの記述を読んだから。
日本はジュネーブ条約の国なので、日本で発行されるIDPはジュネーブ様式になる。それで要件を満たすのか、と聞いた。答えは返ってこず。
紹介されてたサイトが何を売ってるのか見てきた
アクセスしてみると、こう書いてありました。
Follows the 1949 UN Convention booklet format
Your domestic driver’s license must accompany your IDL in order for it to be valid as your IDL is a translation document.
運転免許証の画像と証明写真をアップロードすれば発行、試験なし。$45〜59。
ここ、よく読んでほしいところです。
“Follows the format” =「様式に倣っている」。「1949年条約に基づいて発行された」とは書いてません。そして発行元自身が「翻訳文書(translation document)」だと定義してる。免許でも公的な許可でもない、と自分で書いてるわけです。
ジュネーブ条約上のIDPは、締約国か、その国が授権した団体しか発行できません。これは条約の24条に書いてあります。
…holds a valid driving permit issued to him, after he has given proof of his competence, by the competent authority of another Contracting State or subdivision thereof, or by an Association duly empowered by such authority…
1949年 道路交通に関する条約(ジュネーブ条約)24条1項
発行できるのは締約国の権限ある当局か、その当局から正式に権限を与えられた団体。しかも “after he has given proof of his competence” ――運転能力の証明を経たうえで、と書いてある。
免許証の画像をアップロードして$45払うのとは、だいぶ違いますよね。
民間企業が様式を真似て売る紙は、形が同じでも条約上のIDPじゃないですね。発行主体が違うヨ。
民間発行の紙で、日本のIDPの問題は解けない
もう一度17.4を置きます。
17.4. Motorized vehicle driving by an international driving license issued by a non-member country of the Vienna Convention Road Traffic shall be prohibited in Mongolia.
非ウィーン国が発行したIDPでの運転は、禁止されてます。
ここは切り分けが要ります。国外運転免許証と民間発行の紙は別なので。
日本の国外運転免許証は、17.4に直接当たります。非ウィーン条約国が発行したIDPそのものなので、条文の文言どおりです。
一方でe-itaの紙は、17.4に当たるとすら言えません。「非加盟国が発行したIDP」ですらないからです。国が発行したものじゃないし、サイト自身が translation document と説明してる。条文の想定の外にある紙、というのが正確なところかと。
そして17.3が認めてるのは「ウィーン条約加盟国が発行した免許」か「同条約に適合するIDP」でした。あの紙がそのどちらかに当たる根拠は、サイト上では確認できませんでした。
つまりこういうことです。日本のIDPが17.4で抱えてる問題を、民間発行の紙は解決しません。
1文目で条約の区別を正確に説明できてる業者が、2文目でこれを勧めてる。悪意だとは思いません。たぶんそこまで詰めて考えてない。
だから、少なくともB社のサイトからはこう読み取れます。条約の区別を示したうえで、民間発行IDPを案内している。
そこまでが、私に確認できたことです。B社が17.3や17.4をどこまで踏まえているのかは、サイトからは分かりません。
ほかの業者がどうかは分かりません。私が現物を確認できたのは、B社のサイト1件だけです。
案内の書きぶりとしては、これで足りるように読めます。??
ただし、、事故が起きたとき、保険会社が「現地法上の有効な資格」として認めるかどうかでいうと。民間発行の紙がその判断を通る保証は、どこにもないですね。
ちな、日本の正規ツアー会社はこの穴をどう埋めてるか
検索してると ん!! 日本の会社でモンゴルツーリングツアー開催してるとこあるやん
この人達はどうやってモンゴルでそんなことしてるんや と。
モンゴルでバイクツーリングのツアーを商売としてやってる日本の会社は、この免許問題を必ず処理してるはず。正規の旅行会社が、参加者全員を無資格運転させて営業を続けられるわけがないかなと。
で、日本でモンゴルのバイクツーリングを企画してる道祖神(株式会社道祖神)に、免許と保険について問い合わせてみました。2026年8月初旬に、ちゃんとバイクデスクから回答きました。
要旨は4点。
1. モンゴルの免許は取得してない。短期旅行では取得できない。
私が調べた通りだと認めてる。
2. 条約の不整合を正面から認識してる。
日本はジュネーブ条約、モンゴルはウィーン条約で、両者に相互条約はない、と回答文にそのまま書かれてた。旅行会社が「大丈夫です」で流さずに、条約名を挙げて説明してきたのは誠実。
3. それでも国外運転免許証は取得させてる。理由はキリル文字。
日本の国外運転免許証にはキリル文字の表記があるため、現地警察に対して「日本で免許を持っている」証明にはなる。だからツアー参加者には取得してもらってる、と。
4. そして、走行場所が公道ではない。
ツーリングの走行場所が公道ではないということもあり、現地と確認しながらツアーを企画しております。
この1文が、この記事の一番の手がかりでした。
ただ、「答え」とまでは言えません。
いまはもう17.4が出てきてます。あの条文は “in Mongolia” としか書いてなくて、道路上に限るとは書かれてない。素直に読むと、公道かどうかに関係なく走れないように見えるんですよね。
17.4の条文がどこまでの意味を持つのかは、私にははっきり判断がつきません。だから「公道じゃないから大丈夫」が答えだ、とも言い切れない。
道祖神は「公道外」という整理でツアーを組んでいる
回答から確認できたのは、公道外と位置づけたルートを、現地と確認しながら企画しているという点まで。
17.4との関係をどう法的に整理しているかは、回答からは分かりません。
ここから先は、回答文を読んだ私の推測です。回答にこう書いてあったわけではありません。
彼らの整理は、たぶんこうなんじゃないか。公道での運転資格の話なんだから、公道を走らなければその要件は問題にならない。だから草原と私有地を走るツアーとして組み立てて、現地と確認しながら成立させている。免許の穴を塞ぐんじゃなくて、穴の空いてる場所を通らないルート設計にする。
推測はここまで。回答文に戻ると、「だから日本のIDPで合法に走れる」とまでは、どこにも書かれていません。
しかもさっき引用した17.4です。
あれは “in Mongolia” としか書いてなくて、道路上に限るとは書かれてない。この整理が条文上どこまで持つのかは、私には判断がつきません。(ここは後半でさらに詰めます)
免許は制度上どうしても取れない。そのうえで長年ツアーを成立させている以上、現地と詰めた何らかの整理があるんだろうとは思います。
ただ、その中身までは私には見えません。
キリル文字の話は、現物で確認できた
ちなみに、道祖神の回答のうち、キリル文字の部分は事実確認できます。
お持ちの国際免許を開けばわかります。

ジュネーブ条約の様式は、フランス語をベースに複数言語を併記した冊子。その併記言語にロシア語が含まれてます。ロシア語はキリル文字で書かれて、モンゴル語も今はキリル文字を使う。なのでモンゴルの警察官はこの冊子見て「これは運転免許に関する公的な文書だ」と読めるっちゃ読める。
これは実務上、確かに意味があると思う。何が書いてあるか分からない外国の紙を出されるのと、見出しが読める公文書を出されるのとでは、現場の対応は違うはず。
ただ、ここは正確に切り分けておかないと。
「読める」は「有効」じゃない。です
キリル文字表記があることで得られるのは、文書が読めるってことと、それによる現場での説明のしやすさ。モンゴル法上の運転資格が発生するわけじゃないです。
それと、道祖神の回答の言葉選びも。
彼らは「モンゴルで運転できる資格になる」とは書いてませんでした。「日本で免許を持っている証明になる」と書いてました。
実際に借りたとき、免許は一度も見られなかった
正直に書くと、ここまでの半分くらいは、出発前には分かってませんでした。条文をここまで読んだのは帰ってきてからです。
出発前に掴めてたのは「業者は貸してくれるらしい」というところまで。ここからは、現地で起きたことを書きます。
8月、ウランバートル市内のA社でバイクを借りました。
窓口で提示を求められたのは、パスポートだけでした。
国際運転免許証はもちろん持ってった。事前のやり取りで条約の話までしてたし、必要になると思ってた。
が、一度もちゃんと見せる機会がなかった。(笑) 一応、国際免許を出して「これはみない?」と聞いたが、別にいい といった感じで確認されてなかった。日本の運転免許証も見られず。
これは、事前の回答からずれてる。
A社は「ok no problem」と答えてたけど、それは「国際免許があるなら問題ない」という含意だと私は思ってたけど、実際は、その国際免許の存在すら確認されず。(笑)
つまり今回の貸出では、国際免許は本人確認の材料としても使われず。求められたのはパスポートと連絡先だけ。
彼らが何をどこまで確認してるのかは、私には分かりません。ただ今回の貸出で、有効な免許の確認は行われなかった――書けるのはここまでです。
業者が免許の有無を記録してないということは、
後で「有効な免許を確認した上で貸した」という主張が誰からも成り立たないということ。
もし事故起こした際に効いてくるのは、これ。
「公道を避ける」は成立するのか ― 条文を読みに行った
さっき書いたとおり、この理屈は出発点から怪しい。それでも読みに行ったのは、公道を避ける方向で調べれば合法的に走れる手段が見つかるんじゃないか、と思ったからです。
結果を先に言っておくと、成立しませんでした。順に書きます。
出発前、気にしてたこと、
個人手配で、公道区間を走行しないようにできる?どこまで削れる?問題
道祖神の解が「公道を走らないこと」で、個人も同じことできればええやんと。
バイクを市外まで運搬してもらう手はあるのか。テレルジ側で借りる選択肢はあるのか。ウランバートル市内からテレルジらへんまでの道は、公道じゃない?公道あったとしてどれぐらい?
調べた結論から書きます。削る方法が見つかりませんでした。
まず、バイクを借りられるのはウランバートル市内(市内といっても都会ではなく端のほう)です。走り出すとすぐ舗装は終わるんですが、それでも舗装区間がゼロにはならない。短いながら公道らしき道を通ることになります。
公道ではなさげな場所までバイクを運搬してもらう手段や、テレルジ側で借りる選択肢は、少なくとも私が探した範囲では見つかりませんでした。
そしてもっと根っこに、別の問題が。
そもそも、どこからが「公道」なのか。
ウランバートルからテレルジへの道は、途中から舗装がなくなります。轍のある土の道になって、Googleマップ上には道として出てるけど、標識はないし、境界を示すものもない。地図に出てる轍と、車が何度も通ってできただけの跡と、どう違うのか。
「ウランバートルからテレルジ」と言われてもピンと来ないと思うので、位置関係だけ図にしました。

モンゴル法は「道路」をどう定義してるのか
帰ってきてから、そもそもモンゴルの法律が何を「道路」と呼んでるのかを調べました。さっきの交通安全法、定義条項(第3条)にこう書いてあります。
3.1.4. “Road” means an area designed for driving vehicles. A carriageway, its shoulder, pedestrian’s sidewalk and roadway median are inclusive to the road;
3.1.5. “Traffic” means a movement of humans and freight on foot or by vehicle on public roads;

そんで17.4の禁止規定には「道路上」という限定がない。
読んでて「お」と思ったのが2つ。
ひとつ、道路が所有権や公私で定義されてない。「車両の走行のために設計された区域(an area designed for driving vehicles)」という、機能による定義になってます。車両の走行のために設計された区域とは。。
もうひとつ、3.1.5 には “public roads(公道)” という言葉が出てくるのに、この法律のどこにも「公道」そのものの定義が置かれてない。
つまり「どこからが公道か」は、調べる側の知識の問題じゃなかったわけです。
条文の側に、判定基準が書かれてない。
正直に書くと、”designed” の一語を見た瞬間、舗装されてればそれは道路で、みんなが勝手に通ってできた轍は「設計」されてないから道路じゃない、と読みたくなりました。そう読めたら話が早いので。
でも条文はそこまで言ってません。舗装の有無は一言も出てこない。それに17.4の禁止規定のほうは “prohibited in Mongolia” としか書いてなくて、道路の上に限るとは書かれてない。
「公道じゃなければいい」という理屈は、条文からは出てこないんです。そう読めるかもしれない、で止めておきます。
交通規則のほうに、答えが書いてあった
ここで止めてもよかったんですが、ひとつ引っかかってました。
モンゴルにはこの交通安全法とは別に、政府が定める「交通規則」があります(交通安全法4.2が「政府が交通規則を承認する」と定めてる)。日本でいう道路交通法に対する施行令みたいな位置づけで、細かいルールはそっちに書かれてる。
そっちに道路の定義が足されてるんじゃないか?
探したらありました。МОНГОЛ УЛСЫН ЗАМЫН ХӨДӨЛГӨӨНИЙ ДҮРЭМ(モンゴル国交通規則、2018年 政府決議239号の附属書)。その1.2に用語の定義が55個並んでて、15番目がこれです。
1.2.15. “зам” гэж Замын хөдөлгөөний аюулгүй байдлын тухай хуулийн 3.1.4-т заасан болон хөдөлгөөнд нээлттэй хучилттай буюу шороон зурвас газрыг;
「道路」とは、交通安全法3.1.4に定めるもの、および交通に開かれた、舗装または土の帯状の土地をいう
読んだ瞬間、さっきの自分の解釈が消し飛びました。
шороон = 土。舗装だけじゃなくて、土の道も名指しで道路に入ってる。条件は「交通に開かれてるか」だけ。舗装されてるかどうかは、関係なかった。。
私が走った轍は、一部は車が通ってた、途中ここはさすがに日常使いは無理だろってとこもありましたね、一応Googleマップには載ってた(案内にはでてきません)国立公園に通じてる道です。


これが「交通に開かれた土の帯状の土地」に当たるのかどうか、私には断定できません。特定の道が当たるかは結局のところ判断だし、そもそもこの規則には公式の英訳がなくて、上の訳は私がモンゴル語から起こしたものなので。
ただ「舗装されてないから道路じゃない」で片付く話ではなくなったのは確かです。
「舗装されてないから道路じゃない」は、規則に真っ向から否定されてました。自分に都合のいい読み方はしちゃいかんすね(笑)
ただし、ここは正確にしておかないと。
1.2.15が定義してるのは「道路(зам)」であって、「公道」ではありません。
交通安全法3.1.5には “public roads” という語が出てくるのに、公道そのものの定義は、法律にも規則にも見つかりませんでした。だから「道路の定義に当たる=公道である」と言い切れるかは、別問題として残ります。
ちなみに日本も似た構造です。道路交通法に「公道」という定義語はありません。
あるのは「道路」の定義だけ。私たちが日常で言ってる「公道」は、法律用語じゃなくて通称なんですよね。
もっとも、この記事の結論は変わりません。後で書くとおり、17.4の禁止規定には「道路上」という限定がそもそも無いので。道路か公道かを詰めても、そこは通過できない。
※ 交通規則には英訳がないので、上の日本語は私がモンゴル語の原文から訳したものです。正確を期すなら原文を当たってください。
じゃあツアー会社は、どうやって判定してるんだろう
ここまで書いてきて、引っかかることがあります。
道祖神は「走行場所が公道ではない」と書いてきました。じゃあ、それはどうやって判定してるんだろう。
回答の言い方は「現地と確認しながら」でした。つまり現地パートナーの判断に依拠してるということだと思います。それは、判定する人が現地人?に変わっただけで、結局は誰かの解釈なんじゃないか。
疑ってるわけじゃないです。プロが長年ツアーをやってて問題が出てないなら、実務的にはそれが答えなんだと思う。現地の事情も私より遥かに詳しいはずです。
ただ、「条文に照らして公道ではない」ことの根拠を、私は誰からも見せられていません。
そして交通規則1.2.15を見つけたいま、「未舗装だからセーフ」という読み方は消えました。土の道も、交通に開かれてれば道路です。
もし彼らが本当に交通に開かれてない土地(囲われた私有地など)を走ってるなら、「公道ではない」は成立します。でも草原の一般的な轍は、たぶんそうじゃない。
そして判定がつかないことは、安全であることを意味しません。分からないまま走れば、その分からなさをそのまま引き受けることになる。
それが実際に効いてくるのは、走ってる最中じゃなくて事故が起きたときです。そこは後の章で書きます。
結局、残ってる論点はひとつだけになりました。17.4の禁止は、そもそも道路上に限られるのか。
条文は “in Mongolia” としか書いてない。ここだけはモンゴル政府に聞かないと分かりません。これは今後の宿題に。免許が使えるかどうか(=答えはもう分かってる)じゃなく、この1点を聞くなら照会する価値あるかなと。
「捕まるのか」答えておく
ここまで読んで一番気になってるのは、たぶんここなのでは?
正直に言うと、ここは私には答えられません。
検問の頻度も、止められたときの現場の運用も、私が持ってるのは自分が通った範囲の話と、ネット上の経験談だけです。それは統計でも制度でもない。「大丈夫だった」を何件集めても、次に走る人の話にはならないですし。
ひとつだけ言えるのは、国外運転免許証を携行してれば、前述のキリル文字のおかげで書類の説明はしやすいということ。ただしこれも前に書いたとおり、「読める」であって「有効」ではないです。
止められたら何が起きるのか
ここは正直に書きます。公式の条文までは確認できませんでした。
調べた範囲では、無資格運転の罰則は交通安全法じゃなくて違反法(Зөрчлийн тухай хууль)の14.7条に置かれてます。モンゴル警察の公開情報が繰り返しこの条文を挙げてるので、場所としてはここで間違いないはず。
金額は「200単位(1単位=1,000トゥグルグなので約20万トゥグルグ、日本円で1万円弱)」という記述と「400単位に改正された」という記述の両方を見つけましたが、legalinfo.mn から条文本体を取り切れなかったので、金額は書きません。
ひとつだけはっきりしてるのは、「罰金で済む」と決まってるわけじゃないということ。無資格運転に飲酒が乗ると拘留(7〜30日)や刑法の適用に触れてる情報もありました。人身事故が絡めばなおさらです。
なので「最悪でも罰金でしょ」とは、私は書けません。
ただ、これも結局は誰かの経験談の集まりでしかない。C社が言ってた “usually” と同じですね。何回か大丈夫だったからといって、次に走る誰かの安全が保障されるわけじゃない。
そして、ここからが本題!
事故ったときが本番
この話もかなり大切かと。
事故を起こして、無資格運転と認定された場合、
現地法上の有効な運転資格がないと判断された場合、保険の免責が問題になる可能性があります。
ただし補償されるかどうかは、約款と個別の事情によります。
実際にどう適用されるかは保険約款と事故の態様によるので、みなさんが入ってる保険の約款をしっかり確認しましょう。
私は今までちゃんと読んでませんでしたが今回しっかり読みました。
みなさんが確認すべきなのは、たぶんこのへん。
- 賠償責任の条項に、無資格運転・無免許運転の免責がどう書かれているか
- レンタル業者側の保険が、借り手の資格をどう条件づけているか
- 自分の傷害部分(運転中の傷害)が除外されるかどうか
もし免責になった場合、対人事故の負担には上限がありません。相手の治療費、後遺障害、休業損害。海外でそれを自分で背負う可能性がある、ということです。
そしてここで、前の節の話が効いてきます。
「レンタル業者が貸してくれた」も「業者は免許を確認しなかった」も「検問に遭わなかった」も、それだけで有効な運転資格があったことの根拠にはならない。それ以上でも以下でもないです。
刑事の側面
人身事故に無資格運転が乗った場合の扱いについては、具体的な運用を確認できていません。出国に関わる手続き上の影響に触れてる情報も見ましたが、条文や公的な出典に当たれなかったので、ここには書きません。
前の節と同じで、「最悪でも罰金でしょ」とは書けない――私に言えるのはここまでです。
バイク特有の話
四輪と違って、バイクは軽い転倒でも自分が怪我をします。だから対人賠償だけじゃなくて、自分の傷害部分の免責条項を読む価値がある。「運転中の傷害」が無資格運転で除外されるかどうかは、約款によって書き方が違います。
改めて言いますが、クレジットカードの海外旅行保険の約款はよく確認しておきましょう!
保険側の詳細は長くなるので別記事にまとめる かも。
カード付帯保険を約款まで読んだ結果と、実は治療費より救援者費用のほうが問題では という話になる予定。
この記事で分かること
- 日本の国外運転免許証はモンゴルでは通用しない。
条約の系統が違って、モンゴル国内法には非加盟国IDPを排除する規定があって、日本大使館も使えないと明記してる - この穴を埋める手段は存在しない。
ウィーン系を取る、事前にモンゴル免許を取る ― 全部塞がってる - 業者は貸してくれるけど、誰も「合法だ」とは言わなかった。
条約の不整合を明示して聞いた上で返ってきたのは「ok no problem」と「Usually ok yes」。どっちも営業上の受け入れ表明であって、資格についての言明じゃない - 少なくともB社は、条約の区別を示したうえで民間発行IDPを案内していた。
ただしそれは条約に基づく公文書じゃない。保険会社の判断を通る保証もない - 正規の日本ツアー会社は、走行場所を「公道外」として現地と確認しながらツアーを組んでいる。
ただし、この整理だけで17.4の問題まで解けるかは、回答からは確認できない - 走行場所を「公道外」とする整理が個人手配で使えるのかは、分からなかった。
借りてすぐ舗装は終わるが、舗装区間がゼロにはならない。
そして「道路」の定義は交通規則1.2.15にあるものの、「公道」の定義・特定の轍がそれに当たるか・17.4の射程は確定できない。避けるべき対象が識別できないなら、避けるという戦略は成立しない - そもそも17.4は「道路上で」とは書いてない。
“prohibited in Mongolia” とだけある。素直に読むと公道かどうか以前の問題に見える。この条文がどこまでの射程を持つのかは、私には判断がつかなかった - 借りるとき、免許は一度も確認されなかった。
これはリスクを減らしてない。もし事故ったら「業者が有効性を確認してない」という事実が重くのしかかるのでは - 論点は検問じゃなくて事故
現地法上の有効な資格がないと判断されれば、保険の免責が問題になり得る。実際の適用は約款と事故の態様によるので、自分の保険を読んでおくしかない
この記事は判断材料であって、推奨でもその逆でもないです。
「モンゴルでバイクを借りるべきか」は、上の9点を読んだ人が自分で決めることですね。
少なくとも、知らずに現地に着くのと、ここまで分かった上で現地に着くのは別のことだと思います。
ここまで読んで、それでもモンゴルを諦めてない人に一冊だけ。
大前研一の『やりたいことは全部やれ!』(大前研一・講談社文庫/Amazon)です。
タイトルだけ見ると勢い任せの本に見えますが、中身はむしろ逆で、やりたいことをやるために時間と段取りをどう作るかという話です。「いつかやる」を「いつまでに、どうやって」に変えるための本。
この記事でやったような面倒な下調べも、結局はその一部かなと。
参考にした情報源
- 在モンゴル日本国大使館「モンゴルの運転免許制度について」(令和5年3月1日)
https://www.mn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/MongoliaDriverlicense.html - モンゴル交通安全法 第17条(17.3/17.4)・第3条(3.1.4/3.1.5)
legalinfo.mn ЗАМЫН ХӨДӨЛГӨӨНИЙ АЮУЛГҮЙ БАЙДЛЫН ТУХАЙ(英訳は Unofficial translation 表記) - 1949年 道路交通に関する条約(ジュネーブ条約)※IDPの発行主体は24条1項
- 1968年 道路交通に関する条約(ウィーン条約)※モンゴルは1997年12月19日加入
- モンゴル国交通規則 1.2.15(2018年 政府決議239号の附属書)
legalinfo.mn МОНГОЛ УЛСЫН ЗАМЫН ХӨДӨЛГӨӨНИЙ ДҮРЭМ(モンゴル語のみ) - 日本 道路交通法 2条1項1号(道路の定義)
- 株式会社道祖神 バイクデスクからの回答(2026年8月6日)
- ウランバートルのレンタルバイク業者3社への問い合わせと回答(2026年6月)
この記事は2026年6月〜9月時点で私が調べた内容と、実際の渡航(2026年8月)の記録です。法令や運用は変わることがあります。法的助言ではないので、判断は各自の責任でお願いします。