日本郵船が6,000円を超えた。調べたら、売ることにした
日本郵船(9101)を100株持ってました。2026年4月28日に5,611円で買ったやつ。
PBR低いよな、海運って配当いいよな、これからまたあがりそう、買っとくか。
その程度の理由。
で、今日たまたま証券口座を開いたところ、6,076円。
含み益+46,500円。嬉しい。嬉しいんですが、なんで上がってるのか分からん。
そういえば先週金曜にホルムズ海峡で~というニュースをちらっとみた気が、、忙しかったのでちゃんとみれてなかった。
で、調べました。そしたら「株価は上がってるのに、海峡を通ってる船ほぼゼロか」という、気持ちの悪い事実にぶつかりました。
この記事は、その気持ち悪さの正体を突き止めて、最終的に売るまでの記録です。
なんで上がってんの? 素人の第一感
まず数字。2026年7月27日時点、Yahoo!ファイナンスより。
| 株価 | 6,076円(前日比 +2.19%) |
| 7月16日終値 → 7月24日終値 | 5,540円 → 5,946円(8営業日で+7.3%) |
| PBR / 配当利回り | 0.80倍 / 3.29% |
| 次回決算 | 2026年8月5日(第1四半期) |
7月17日には出来高が前日比+114%。商船三井も川崎汽船も揃って動いてます。つまり会社固有の話じゃなくて、セクター全体が一斉に買われてる。
ここで私が思ったのはこうでした。
中東がキナ臭い → 海運株が買われる → よくあるやつ。
あと8月5日に決算があるから、それ待ちの買いもあるんだろう。
それっぽい。でも「中東がキナ臭い」で思考停止してるだけですよね、これ。
先週の金曜、何があったか
冒頭に書いた、スルーした金曜のニュース。
ホルムズ封鎖なんて今年に入って何回目だよという感じで、完全に「はいはい、またね」の扱いでした。
調べたら、その金曜(7月24日)はけっこうな日でした。
- 米中央軍が、封鎖突破を試みたタンカー「M/T Lavine」の機関室に砲撃して航行不能に(同様の対応は2隻目)
- イラン革命防衛隊がクウェートの米軍基地を攻撃したと発表
- フーシ派が紅海でサウジ籍タンカー2隻を攻撃
ちなみに今年のホルムズは、2月28日にイランが封鎖して以来ずっと荒れてます。
3月に急騰 → 4月に停戦期待で剥がれる → 7月にまた騰がると、市場はすでに2往復してる。
ここで気づいたんですが、私が買った4月28日って、まさにその「剥がれた谷」でした。
つまり今の含み益は、会社が強くなったからじゃなく、抜けたプレミアムが戻ってきただけかもしれない。
で、じゃあその「プレミアム」って何なんだと。
調べたら、思ってたのと違った
① 効くのは「運賃」じゃなく「距離」
私は「海が危ない → 割増料金がとれる → 儲かる」だと思ってました。違いました。
キーワードはトンマイル。貨物の量(トン)×運んだ距離(マイル)です。海運の需要はこの掛け算で測ります。
例として、サウジの原油を台湾まで運ぶケース(これは市場全体の仕組みを見るための例で、郵船の航路ではありません。そこは③で触れます)。本来はペルシャ湾で積んでホルムズを抜けますが、通れない。なので湾岸の原油を東西パイプラインで紅海側のヤンブーまで陸送して積みます。ところが紅海の南(バブ・エル・マンデブ)もフーシ派で危ない。結果、北のスエズへ抜けて地中海・大西洋を回り、喜望峰経由でアジアへという航路になります。

航海日数が2.5倍。ということは、同じ量を運ぶのに2.5倍の船が要る。
船はすぐ増やせません(新造船は2〜3年かかる)。だから世界の船腹が実質的に縮んで、運賃が上がる。
「危ないから割増」ではなく「遠回りするから船が足りなくなる」。ここが第一の勘違いでした。
② 郵船の利益振れ幅で効くのは、タンカーじゃない コンテナ船!
「ホルムズ=原油=タンカー」と連想しますよね。
2026年3月期のセグメント別実績を見たら、そう単純じゃなかった。
| セグメント | 経常利益 | 前年からの増減 |
|---|---|---|
| 自動車 | 979億円 | 最大の柱 |
| エネルギー(タンカー・LNG) | 544億円 | |
| 定期船(コンテナ・ONE) | 497億円 | -2,245億円 |
| 全社 | 2,111億円 | 前期比 -57.0% |
いちばん稼いでるのは自動車事業。タンカーじゃない。
そして注目すべきは定期船の-2,245億円です。金額の順位は3位ですが、全社が57%減益になった主犯はここ。中身はONE(オーシャン ネットワーク エクスプレス)という、郵船・商船三井・川崎汽船が統合して作ったコンテナ船会社です。
好況期は数千億稼いで、不況期は一気に消える。郵船の利益でいちばん振れ幅が大きいのがONEなんですね。
つまり「郵船が地政学で動く」というとき、実体はコンテナの話で、VLCC(大型原油タンカー)の運賃じゃない。ここが第二の勘違いでした。
③ ところが、どっちも儲けにつながってない
①と②を合わせると、こういう理屈になります。
紅海が荒れる → コンテナ船が喜望峰回りになる → 船が長く拘束される → 船腹が実質的に減る → 運賃が上がる
ホルムズが閉じる → ペルシャ湾内からタンカーでれないことになる → 原油が陸路で湾の外へ回される → そこから先も紅海危ないのでタンカーは喜望峰遠回り → 同じく船腹が減る → 運賃が上がる
ちなみにカタールのLNGは原油のような逃げ道がありません。基地が湾の中にあってパイプラインの出口もないので、文字どおり出られない。
QatarEnergyが不可抗力を宣言することになったのは、これが理由。
さて、理屈としては筋が通ってます。ただこれ、「高い運賃で、実際に運べてる」という前提の上に成り立ってるんですよね。
タンカーとコンテナ、それぞれ確認しました。そうしたら両方で手が止まりました。理由は別々でしたが。
タンカー:そもそも運べてない
| 7月13〜19日 | 通航 | 前週 |
|---|---|---|
| 非イラン系の船舶 | 25隻 | 108隻 |
| タンカー | 39隻 | 85隻 |
| VLCC | 9隻 | 35隻 |
通航量は前年比で約90%減。しかもタンカー通航の約70%はAISを切った「ダーク航行」です。
止まってる理由のひとつが保険で、戦争リスク保険料は開戦前の船価0.25%程度から3〜10%に跳ねてます。1億ドルのタンカーなら1航海で数百万ドル。ここまで来ると「保険が付かないから行かない」になります。
IMOによれば、7月24日時点でホルムズ周辺の約400隻に6,000人以上の船員が足止めされてます。
ここで「陸路で湾の外に回せばいいのでは」と思ったんですが、量がまるで足りませんでした。
| 通常ホルムズを通る石油 | 1日 約2,000万バレル |
| サウジ東西パイプライン(→ヤンブー) | 1日 最大700万バレル |
| UAEのADCOP(→フジャイラ) | 1日 約180万バレル |
| 迂回できる合計 | 1日 約880万バレル |
つまり半分以上は、そもそも出口がない。パイプラインは満杯で、これ以上は積み増せません。
そしてもうひとつ、郵船にとってはこっちのほうが大事でした。
①で見たヤンブー発の喜望峰ルート、あれは市場全体の話であって、郵船の航路ではありません。
郵船のVLCCの主力は中東 → マラッカ海峡 → 日本。
日本の原油輸入は9割超が中東依存で、その生命線を運んでるのが郵船のVLCC。実際、郵船が新造するVLCCも「日本と中東をつなぐ主要航路であるマラッカ海峡を通峡できる最大船型」として造られてます。
ということは、ホルムズが閉じた瞬間に郵船のタンカーは主力航路そのものが成立しなくなる。
喜望峰回りで距離が伸びて得をするのは、ヤンブー積みの貨物を取れる船であって、湾内に取り残された船じゃないんですね。
これが郵船にどう効くかというと、エネルギー事業(経常544億円、2番目の柱)が、高い運賃を売上に変えられないということです。
ただ、その瞬間に赤字転落かというと、そこまで単純でもないみたいです。郵船のタンカーやLNG船は長期の傭船契約が中心なので、収入にクッションがあります。
裏を返すと、スポット運賃がどれだけ跳ねてもすぐに全額を取り込めないということでもあります。守られてるけど、短期の運賃高騰には乗りきれない。一方で、契約更改時のレート上昇や、一部のスポット・短期契約で間接的に恩恵を受ける余地はある。
運賃指標がいくら跳ねても、成約して運ばないと1円にもなりません。実際、海事プレスは2026年3月の中東―中国航路について「実際の輸送や成約が減退し、実勢を反映しにくい異例の市況となった」と報じてます。板がスカスカのところで付いた高値みたいなものですね。
コンテナ:運べてる。でも運賃が上がらない
じゃあコンテナはどうか。こっちはちゃんと動いてます。コンテナ船はホルムズを通らないので、そもそも足止めされてません。紅海を避けて喜望峰回りになってるぶん、距離もしっかり伸びてる。
理屈どおりなら、ONEは儲かってるはずです。
ところが②の表をもう一度見てください。定期船は前年から2,245億円の減益。喜望峰迂回は2023年10月からずっと続いてたのに、です。
理由は新造船。
2024年に発注が急増していて、その竣工が今まさに効いてます。コンテナ船腹量の増加率はBIMCOの見通しで2025年+6.8%、2026年+4.1%、2027年+6.9%。郵船自身も、定期船が振るわなかった理由を「新造船の竣工による船舶供給量の増加に加え、関税政策や中東情勢などの影響」と説明してます。
つまり迂回が船腹を食う以上のペースで、船が増えた。綱引きに負けてたわけですね。
整理するとこうです。
| 運べてる? | 運賃は上がってる? | 儲かってる? | |
|---|---|---|---|
| タンカー | 運べてない(VLCC週9隻) | 指標上は上がってる | × |
| コンテナ(ONE) | 運べてる | 船が増えて上がらない | × |
片方は運べず、もう片方は運賃が上がらない。どっちも「運賃高騰=儲かる」になってない。
じゃあ市場は何を買ってるんですかと。
そういうことか:買われてるのはおそらく「期間」
で、ここが今回いちばん腑に落ちたところ。
市場が買ってるのは、運賃の「水準」じゃない。
異常が続く「期間」のほう。
トンマイルは「運賃 × それが続く日数」の積み上げです。だから今この瞬間に船が通ってなくても、「長引く」という見方が強まれば買える。
そして7月中旬から下旬の材料は、全部その方向でした。
| 日付 | 出来事 | 何が変わったか |
|---|---|---|
| 7月7日 | 米軍が攻撃を再開 | 6月17日の停戦シナリオが崩れた |
| 7月13〜19日 | 通航が崩壊(VLCC 35→9隻) | 「本当に止まった」がデータで見えた。株が動いたのもこの週(7/17に出来高+114%) |
| 7月22〜23日 | QatarEnergyが不可抗力を10月中旬まで延長する準備と報道 | 当事者が「少なくとも10月まで」と示した |
| 7月24日 | フーシ派が紅海でサウジ籍タンカーを攻撃 | ホルムズの話が、コンテナ船の通る紅海に波及した |
とくに最後の1つ。ここで「原油の話」が「コンテナ=ONEの話」に変わります。②で見たとおり、郵船の振れ幅の主役はコンテナですからね。
この見方に立つと、気持ち悪かった2つの事実がきれいに揃います。
「通航ほとんどない」は、市場にとって「悪材料」じゃない。
「異常がまだ終わってない証拠」として読まれてる。
船が通らないほど迂回は長引く。迂回が長引くほどトンマイルは積み上がる。だから「通航ほとんどない」と「株価6,000円」は矛盾しない。
なのかな。
じゃ、今後どうなりそうか
仮説が「期間を買ってる」だとすると、この株の行方は期間の見通し次第ということに。
そこで気になる点が3つ。
1. 停戦のヘッドライン1本で剥がれる
「合意」が報じられた瞬間、積み上げてきた期間の想定が一気に縮みます。実際3月→4月にそれが起きてる。2回起きてることが3回目起きない理由はない。
2. 長引けば長引くほど、逆側も効いてくる
原油高が続けば世界の荷動きが減る。そして③で見たとおり、新造船は待ってくれません。時間は必ずしも味方じゃないんですよね。
3. 検証する材料が、当面出てこない
8月5日の決算は4〜6月期です。7月の再悪化は1円も入りません。しかも会社計画1,850億円に対してアナリストのコンセンサスは2,148億円(IFIS株予報、7/27時点)と、すでに16%上を見てる。ハードルが上がった状態で、答え合わせにならない決算を迎える。
「期間が伸びた」ことが数字で確認できるのは、早くて11月の中間決算です。
ということで、100株売却しました
決め手は3つ目でした。
「期間が伸びる」という仮説に乗るなら、それが当たってるか確かめられないと困ります。でも答え合わせは11月。3か月、検証できない仮説の上に乗り続けることになる。
ハードルが上がった状態で、答え合わせにならない決算を迎えるのが嫌、しかも停戦のヘッドライン1本で剥がれやすいテーマ。
長期で持つつもりでNISAで買ったわけでもないので、売りました。
PBR0.80倍・配当利回り3.29%なので下値は相対的に堅い。そのまま持ち続ける判断も十分アリだと思います。ただ私は「なぜ上がってるかを自分で説明できる状態で持ちたい」というだけでした。
よくある質問
Q. ホルムズ海峡が封鎖されると、海運株は必ず上がる?
いいえ。ただし、迂回で航海日数が伸びれば船腹が実質的に減るので買われやすい傾向はある! が、戦争リスク保険料の急騰や通航量そのものの激減で、輸送機会を失う側面もあります。2026年は3月に急騰、4月に下落、7月に再上昇と、すでに2往復してます。
Q. トンマイルとは?
貨物の量(トン)と輸送距離(マイル)を掛けた、海運業界の需要指標。迂回で距離が伸びると同じ貨物量でも船が長く拘束されるため、実質的な船腹供給が減ります。2026年の例では、ヤンブー→台湾の航海が19日から48日(約2.5倍)に伸びました。
Q. 日本郵船でいちばん利益が大きい事業は?
2026年3月期の実績では自動車事業で、経常利益979億円でした。ただし「利益が大きい事業」と「株価を動かす事業」は別!!
同期に定期船事業(ONE)が前年から2,245億円減り、これが全社57.0%減益の主因になってます。金額なら自動車、変動なら定期船(コンテナ)という理解が実態に近いです。
今回いちばん役に立った本を1冊だけ。『コンテナ海運が世界を動かす』(松田琢磨・角川新書)。地政学イベントがなぜ運賃を動かすのかが順を追って書いてあるので、ONEの振れ幅の理由がだいぶ腑に落ちました。
※本記事は2026年7月27日時点の情報をもとに、筆者が自身の保有銘柄について調べた内容をまとめたものです。特定銘柄の売買を推奨するものではなく、将来の株価や業績を保証するものでもありません。株式投資には元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任でお願いします。筆者は記事中の日本郵船株を100株保有していましたが、執筆後に売却しました。本記事にはAmazonアソシエイトのリンクが含まれます。