キオクシアSOで役員・社員はいくら得た?第8期に673万株が行使、値上がり益は約653億円|会長Stacy Smith氏は約240万株【第8期有報】
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結論:第8期(2025年4月〜2026年3月)にSOを行使した役員・社員の、行使した時点での値上がり益は全体で約653億円(税引き前)。うち会長のStacy Smith氏が約230億円(行使は推定約240万株)、前社長の早坂伸夫氏が約1.4億円(同約1.4万株)。内訳の表と計算の根拠は下で説明します。
【2026年9月追記】第8期有報と招集通知の注記で数字を照合し直しました。当初のタイトルにあった「推定最大575億円」は根拠が不十分だったため取り下げています(修正箇所は末尾に記載)。
以前書いたキオクシアSO記事の続編として、2026年6月24日に提出された第8期有価証券報告書(2025年4月〜2026年3月)を読んでわかったことをまとめます。
前回記事(第7期有報ベース)から大きく状況が変わってました。
結論:役員・社員はいくら得た?
第8期(2025年4月1日〜2026年3月31日の1年間)にストックオプションを行使した役員・社員が、行使した時点で得た値上がり益(税引き前)は、全体で約653億円。内訳はこうなる。
| 誰が | 行使した株数 | 行使時点の値上がり益 |
|---|---|---|
| 全体 | 6,728,880株 | 約653億円 |
| 会長 Stacy Smith氏 | 約240万株 | 約230億円 |
| 前社長 早坂伸夫氏 | 約1.4万株 | 約1.4億円 |
| その他の役員・従業員 | 約431万株 | 約420億円 |
「行使時点」とはいつか。SOを行使した日のことで、人によって日付は違う。個別の日付は開示されていないが、時期の偏りははっきりしている。半期報告書によると、2025年4月〜9月に行使されたのは39万株だけで、残りの約634万株(全体の94%)は2025年10月〜2026年3月に行使されている(うち2025年10月だけで88万株)。株価は、2025年4月〜9月が1,510円〜5,180円、2025年10月〜2026年3月が4,555円〜24,420円(月ごとの高値・安値)で、後半に大きく上がっている。行使がその後半に集中したので、有報に載っている「行使した日の平均株価」は11,425円と、期中の安値よりずっと高い水準になっている。
全体の数字は、有報に開示された「行使した株数」「平均行使価格1,722円」「行使した日の平均株価11,425円」から計算したもの。個人の株数は開示資料からの推定で、値上がり益は全体の平均株価を当てはめた目安。
なお、行使した株を売ったかどうかは開示されていないので、これは「売って手にした額」ではない。計算の根拠は下の「計算の根拠」で説明している。
社員1人あたりはどれくらい?(仮説)
社員個人の金額は開示されていない。
ただ、社員が多く含まれる第1回のSOは、付与時の対象者618人に対して6,703,440株が付与されている(有報の株式報酬の注記)。単純に割ると1人あたり平均約1.1万株。この平均的な量を全部行使したとすると、行使した時期によって値上がり益はこれだけ変わる。
| 行使した時期(株価) | 1株あたり | 1人あたり(約1.1万株) |
|---|---|---|
| 2025年5〜8月ごろ(約2,500円) | 約830円 | 約900万円 |
| 第8期の平均(11,425円) | 約9,800円 | 約1億円 |
| 2026年2月の高値(24,420円) | 約22,800円 | 約2.5億円 |
つまり平均的な付与量の社員なら、行使した時点の値上がり益は約900万円〜2.5億円、第8期の平均的なタイミングなら約1億円、というのが仮説。ただし次の点で、実際の1人ひとりはこの幅から外れうる。
- 第1回の618人には当社取締役1名・執行役員33名も含まれ、役職によって付与量は違うはず。一般社員は平均の1.1万株より少ない人が多いと考えるのが自然
- 全部を一度に行使したとは限らない。第1回のうち第8期に減ったのは付与数の約4割
- 値上がり益は行使した時点の計算で、税引き前。行使後に売ったか、いくらで売ったかは開示されていない
①SO行使が急加速
前回(第7期末・2025年3月)と今回(第8期末・2026年3月)の各回SO残存数を比較した。
| 回(行使価額) | 第7期末(2025/3) | 第8期末(2026/3) | 減少(1年間) |
|---|---|---|---|
| 第1回(1,667円) | 106,797個 | 62,322個 | ▲44,475個(267万株) |
| 第2回(1,667円) | 74,745個 | 28,631個 | ▲46,114個(277万株) |
| 第3回(1,667円) | 10,351個 | 4,975個 | ▲5,376個(32万株) |
| 第4回(1,667円) | 2,116個 | 1,203個 | ▲913個(5.5万株) |
| 第5回(1,667円) | 1,508個 | 1,508個 | 0 |
| 第7回(1,667円) | 4,195個 | 1,073個 | ▲3,122個(19万株) |
| 第8回(1,667円) | 6,469個 | 0個 | ▲6,469個(39万株) |
| 第9回(2,600円) | 9,660個 | 2,990個 | ▲6,670個(40万株) |
| 合計 | 215,841個 | 102,702個 | ▲113,139個(679万株) |
SO1個は60株。減少した約679万株のうち、行使が6,728,880株、失効(退職などで権利がなくなった分)が59,460株(有報の株式報酬の注記)。第8回は一覧から消え、残りはゼロになった。
特に第1回・第2回の消化が激しく、なんと第2回は前期末から6割以上減ってる!
さらに有報提出日の前月末(2026年5月31日)時点では追加の行使が進んでます。
- 第1回:62,322個 → 55,123個(2ヶ月で▲7,199個)
- 第2回:28,631個 → 19,052個(2ヶ月で▲9,579個)
IPO直後から行使が始まり、2025〜2026年にかけてペースが加速していることが確認できる。
計算の根拠:行使時点の値上がり益はどう出したか
有報から以下の数字が確認できた。
- 第8期のSO行使による新株発行:6,728,880株
- 行使で会社に払い込まれた総額:約116億円(キャッシュ・フロー計算書の「株式の発行による収入」11,588百万円)
- 平均行使価格:1,722円/株(株式報酬の注記)
- 行使した日の平均株価:11,425円(同じ注記。行使した日の株価を株数で加重平均した値)
- 同期間の株価レンジ:最低1,510円〜最高24,420円
この数字から、行使した時点での値上がり益(行使価格と行使日の株価の差)を計算するとこうなる:
| 株価の前提 | 1株あたり | 6,728,880株の合計 |
|---|---|---|
| 行使日の平均株価(11,425円・開示値) | 約9,700円 | 約653億円 |
| 仮に最高値(24,420円)で全株を売った場合 | 約22,700円 | 約1,527億円 |
行使時点の値上がり益は、第8期に行使した全員の合計で約653億円(税引き前)。ただし、行使した株を実際に売ったか、いくらで売ったかは開示されていないので、「売って儲けた額」はここからは分からない。
では1人あたりは。第8期の招集通知(個別注記表の関連当事者取引)に、役員2名の行使が載っていた。
| 人物 | 払込資本(開示) | 行使株数(推定) | 行使時点の値上がり益(目安) |
|---|---|---|---|
| Stacy Smith(会長) | 4,555百万円 | 約240万株 | 約230億円 |
| 早坂伸夫(前社長) | 24百万円 | 約1.4万株 | 約1.4億円 |
| その他の役員・従業員 | — | 約431万株 | 約420億円 |
払込資本は、行使で払った金額に付与時の評価額を足したもの(注記にそう書かれている)なので、そのまま行使価格で割ると株数が多めに出る。そこで株数は、社内取締役が持つSOの数の変化(第7期・第8期の招集通知)から推定した。社内取締役のSOは1年で2,414,940株減っていて、そのうち早坂氏の払込額(24百万円)に見合う約1.4万株を除いた約240万株がStacy氏の分と考えると、払込資本の開示額とも合う。値上がり益は、個人ごとの行使日の株価が開示されていないため、全体の平均11,425円を当てはめた目安。
注目ポイントが2つある。
- Stacy Smithが圧倒的な主役:全行使の約36%がStacy Smith氏1人分。行使時点の値上がり益の目安だけで約230億円。2026年3月末でも約70万株分のSOが残っている(推定)
- 早坂氏の行使は控えめ:上場時に持っていた372,600株のうち、行使したのは約1.4万株(約4%)。2026年3月末で約36万株が残っている(推定)
残りの約431万株を行使したのは、執行役員や従業員など。ただし人数や1人あたりの内訳は開示されていない。第3回(子会社の役員・執行役員3名)や第2回の執行役員4名分なども含まれていて、役職によって持っている数は桁が違うので、人数で割った平均では一般社員の実態は分からない。
さらに面白い話が。
第8期中の最高株価は24,420円だが、2026年6月17日の終値は96,000円。
つまり仮に第8期の最高値24,420円で売った人がいたとしても、もし2026年6月まで待っていればさらに約4倍になっていた。最高値で売った人でも「早まったな」と思っているかも。
一方、まだ行使していない保有者(早坂氏の残り約36万株など)は今も行使価額1,667円に対して96,000円という含み益を抱えている(2026年6月17日の終値で計算)。
早坂氏の残り分だけで約338億円の含み益(2026年6月17日の終値で計算)。。SO行使のタイミングは永遠の難問。
②株式の増加はほぼ全部がSO行使だった
発行済み株式数の推移:
| 時点 | 発行済み普通株式数 |
|---|---|
| IPO前 | 517,500,000株 |
| IPO後(新株発行) | 539,062,500株 |
| 2025年3月31日(第7期末) | 539,355,180株 |
| 2026年3月31日(第8期末) | 546,086,290株 |
| 2026年6月24日(提出日現在・6月の行使分は含まず) | 547,242,648株 |
前回の記事では、発行済み株式の増加が全部SO行使によるものかは分からない、と書いた。第8期有報の注記にはこう書かれていた:
「普通株式並びに資本金及び資本準備金の増加は、新株予約権行使及び事後交付型株式制度に基づく新株発行によるものであります」
事後交付型株式制度とはRSU・PSU(株式報酬)のことで、簡単に言うと:
- RSU(Restricted Stock Unit):「一定期間働き続けたら株式を渡す」制度。自分で買わなくていい、勤続インセンティブ型
- PSU(Performance Share Unit):「業績目標を達成したら株式を渡す」制度。目標達成度によって交付株数が変わる、業績連動型
SOとの違いは、SOが「株を買う権利(行使価額を自分で払う)」なのに対し、RSU/PSUは「株をもらえる制度(自己資金不要)」。
キオクシアは2025年6月の定時株主総会でRSU/PSU「株をもらえる制度(自己資金不要)」を新たに導入していた。
そして内訳も載っていた。第8期有報の1株当たり利益の注記と招集通知によると、第8期の増加6,731,110株のうち、SO行使が6,728,880株、RSU(勤務継続型株式報酬)が2,230株。第8期の株式増加は、ほぼ全部がSO行使だった。
③ベイン&東芝の保有比率が大きく下がっていた
有報のリスク項目には、東芝について次の記載がある(ベインについても同じ文言がある):
「株式会社東芝は、当社の上場時及び上場後において所有する当社株式の一部を売却しておりますが、現時点においても相当数の当社株式を保有することにより、当社の役員の選解任、他社との合併等の組織再編、減資、定款の変更等の当社の株主総会決議の結果に重要な影響を及ぼす可能性があります」
ここでの「相当数」は、売った量ではなく今も持っている量のこと。実際にどれだけ減ったかは「大株主の状況」(株主名簿ベース)で比べるとこうなる:
| 株主 | 第7期末(2025/3) | 第8期末(2026/3) |
|---|---|---|
| 株式会社東芝 | 164,489千株(30.50%) | 96,050千株(17.59%) |
| BCPE Pangea Cayman, L.P. | 118,751千株(22.02%) | 7,545千株(1.38%) |
| BCPE Pangea Cayman2 | 77,400千株(14.35%) | 77,400千株(14.17%) |
| BCPE Pangea Cayman 1A | 48,489千株(8.99%) | 26,790千株(4.91%) |
| BCPE Pangea Cayman 1B | 30,998千株(5.75%) | 7,698千株(1.41%) |
| ベイン4法人の合計 | 275,638千株(51.1%) | 119,433千株(21.87%) |
東芝は約6,844万株減(30.50%→17.59%)。ベイン4法人の合計は約1億5,620万株減(51.1%→21.87%)で、4法人のうち株数が変わらなかったのはCayman2(77,400千株)だけ。前期に22%を持っていたBCPE Pangea Cayman, L.P.は1.38%まで下げ、有報にも「主要株主ではなくなりました」と注記されている。
【2026年9月追記】ベインはその後、2026年7月にキオクシア株を全て手放した(詳しくはこちら)。
①②③から何がわかるか・今後の見通し
①SO行使急加速 → 行使は期限よりかなり前に終わりそう
第1回・第2回の消化ペースを見ると、2025年4月〜2026年5月の約1年2ヶ月で第2回だけで約55,700個(334万株)が減った。第8期は1年で約673万株が行使されていて、2026年5月末の残りは約501万株。このペースが続けば、2029年の期限を待たず2027年中にも主要な回のSOが概ね消化されるのでは。
一方、行使した株をすぐ売っているなら、それは「会社をよく知るインサイダーが株を売っている」というシグナルとも読める(ただし、売ったかどうかは開示されていない)。SOを行使するのは役員・従業員、つまり自社の業績・競合状況・経営計画など一般投資家には見えない情報を知っている人たち。
もし彼らが「これからもっと上がる」と確信しているなら今すぐ売らずに待つはず、という論理でインサイダー売りはネガティブシグナルとして見られることがある。
ただし以下の反論もあり、必ずしも悲観的な意味ではないです
- 単純な利確:行使価額1,667円に対して株価96,000円(2026年6月17日の終値で計算)という約58倍の含み益があれば、会社の見通しに関係なく「十分儲かったから売る」という判断は極めて合理的!
- 個人の資産分散:資産のほぼ全てが一社の株式に集中している状態はリスクが高い。会社への悲観ではなく個人的なポートフォリオ管理のために売っているだけという場合も
- 事前計画による機械的売却:インサイダー規制対策として事前に売却スケジュールを決めておき、それに従って機械的に売っているだけという場合もある。その時点の相場観とは無関係
インサイダー売りと会社業績への見通しは分けて考える必要があり、「売っている=会社が危ない」と単純に結びつけるのは早計です。
②RSU/PSU導入 → 希薄化圧力はSOが消化されても続く
2025年6月に導入されたRSU/PSUは今後も役員・従業員への報酬として株式を交付し続けるはず。SOの行使が終わっても、RSU/PSUによる新株発行が株式増加の原因になり続けるため、希薄化圧力は構造的に続く。ただし第8期のRSUによる発行は2,230株だけで、取締役向けの上限も決議時点で最大0.24%(第7期招集通知)と、SOに比べれば規模は小さい。
またRSU/PSUは業績連動・勤続連動の設計であり、経営陣に株価を高く維持するインセンティブを与える仕組みでもある。単純な希薄化ではなく、ガバナンスの強化という側面も。
③ベイン&東芝の大量売却 → 売っても上がった
東芝とベインが合わせて2億株以上を手放した第8期(2025年4月〜2026年3月)に、株価は1,510円〜24,420円で推移し、2026年6月には96,000円前後まで上がった。これだけの売りがあっても株価が上がったのは、市場側の買い需要(主に機関投資家・AI/半導体テーマへの資金流入)がそれを上回ったと読める。
一方、第8期末時点で東芝にはまだ約9,600万株(17.59%)が残っている(ベインは2026年7月に全株を手放した)。大株主の持ち分解消が続く間は、潜在的な売り圧力として意識しておく必要がある。
総合的な見通し
株価の動向はNAND価格・AI需要・半導体市況などファンダメンタルズが主役であり、SO/RSU/ベイン売却はあくまで需給面の圧力要因の一つ。
需給面では、以下のタイミングを意識しておきたい:
- 2026年6月25日:早坂氏が代表取締役を退任(インサイダー規制は退任後1年は及ぶので、すぐに売買が自由になるわけではない)
- 2026〜2027年:残り約501万株(2026年5月末)の行使が続く可能性
- 2029年3月11日:残っているSOの行使期限。ただし行使済みの株はその後も売れるので、売り圧力が消えるわけではない
2029年3月以降は新たな行使による株数の増加が止まるという意味で、長期保有の観点からはこの期限通過後が一つの区切りになりうる。
まとめ
- SO行使は第7期から第8期にかけて急加速。第8期に全体で約673万株が行使された(第1回・第2回で約544万株減)
- 行使時点の値上がり益は、開示値から計算すると全体で約653億円(税引き前)。会長Stacy Smith氏の行使は約240万株(推定)。実際に売ったか、いくらで売ったかは開示されていない
- 株式増加のほぼ全部がSO行使(RSUは2,230株)と有報で確認
- 東芝は約6,844万株減(31%→18%)、ベイン4法人の合計は51%→22%(その後2026年7月に全株売却)
- 残りのSOは2026年5月末で約501万株。行使と売却は別なので、売り圧力の大きさは保有者次第
第8期有報はEDINETで「E35948」を検索すると無料で閲覧できます。
本記事は第8期有価証券報告書・株主総会招集通知などの公開情報をもとにした一般的な情報整理であり、投資助言ではありません。
修正履歴
2026年9月:第8期有価証券報告書・招集通知の注記と照合し、大株主の表、SOの行使株数・平均行使価格・払込額、Stacy Smith氏の行使株数の推定、RSUによる株式増加の内訳、1人あたり利益の推定部分、タイトルを修正しました。
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