ベインはキオクシア株をいつ・いくらで売った?変更報告書16本で全取引を集計|最後の7,740万株は売られていなかった
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結論:ベインのファンドが持っていた3社(BCPE Pangea Cayman, L.P.・1A・1B)は、2026年6月11日までにキオクシア株2億1,360万株をすべて売却しました。変更報告書で単価が開示された分だけで売却額は約5兆円、市場外の相手はゴールドマン・サックスとメリルリンチです。一方、同じBCPE名義でもCayman2(SK hynixが転換社債を持つ器)の7,740万株は売られておらず、8月には筆頭株主になっています。
【2026年9月追記】大量保有の変更報告書16本とキオクシアの適時開示を確認し、内容を大きく修正しました。初稿では「最後の約7,700万株は高値で処分された、または現物分配されたのでは」と推測しましたが、その7,700万株はCayman2の株で、処分されていなかったため取り下げます(修正箇所は末尾に記載)。
2026年7月8日、ブルームバーグが「ベイン・キャピタルがキオクシアHD株をすべて売却した」と報じた。
情報源は、ベインのマネージングパートナーであるDavid Gross氏本人が同日(7月8日)のブルームバーグTVインタビューで語った「われわれはもはやキオクシアの株式を保有していない」という発言(インタビュー動画)。
以前「ベインはキオクシアでいくら儲けたか」という記事を書いたが、今回はその続編。
ベイン側の売却が終わったので、大量保有の変更報告書で中身を1件ずつ確かめてみた。
関連銘柄の株価チャート(TradingView)
キオクシアホールディングス(TSE: 285A)
※チャートはTradingViewの埋め込みウィジェットによる参考値です。日本株(東証銘柄)は無料埋め込みの仕様によりチャート本体が表示されない場合があります(リンクからTradingViewで確認できます)。売買の際は必ず最新値をご確認ください。
2018年の買収から約8年。
LBO(レバレッジド・バイアウト=借入を活用した買収手法)→IPO→段階売却という、PEファンド(未公開株に投資するファンド)の教科書通りの流れのうち、ベインのファンド分はこれで終わったことになります。
何が起きたか:報道の整理
- 2026年7月8日、ブルームバーグが「ベインがキオクシアHD株をすべて売却、記録的な投資リターン」と報道
- 情報源はベインのマネージングパートナーDavid Gross氏本人。ブルームバーグのインタビューで「もう持ち分はない」と発言
- 利益は報道で150億ドル超、日経は売却益を約2.5兆円と試算(いずれも推計で、ベインの発表ではない)
2018年に約180億ドル(約2兆円)で東芝メモリを買収したコンソーシアムのリード投資家の、ファンド分の持ち分が8年でゼロになった。
開示ではどう見えていたか
売却の経過は、大量保有の変更報告書(発行済み株式の5%超を持つ株主が、1%以上増減すると提出する書類。EDINETで誰でも読める)で1件ずつ開示されていた。
2026年3月には「保有比率3分の1割れ」の変更報告書が提出され(日経報道)、3社のゼロも、6月1日(L.P.)・6月9日(1B)・6月16日(1A)の報告書で開示済み。Gross氏の発言は、それを本人が口で確認した形になる。
一方、同じ報告書のグループに入っているBCPE Pangea Cayman2(SK hynixが転換社債を持つ器)は77,400,000株のまま。6月16日以降、BCPE系の変更報告書は出ていない(=1%以上は動いていない)。
売却の時系列
| 時期 | 株数 | 単価 | 売った社 |
|---|---|---|---|
| 2024年12月〜2025年1月 | 1,536万株 | 1,455円(売出価格) | L.P. |
| 2025年11月26日 | 3,600万株 | 8,971円 | L.P. |
| 2026年2月17・19日 | 3,895万株 | 13,921円(市場外分) | L.P. |
| 2026年3月11〜18日 | 5,126万株 | 20,174〜21,021円(市場外分) | L.P.・1A |
| 2026年4月10〜22日 | 3,500万株 | 24,115〜32,055円 | 1A・1B |
| 2026年5月25日〜6月11日 | 3,703万株 | 53,939〜76,746円 | L.P.・1A・1B |
| 合計 | 2億1,360万株 | 単価判明分の売却額 約5兆768億円 |
出典は各社の変更報告書(1A・1BはBCPE Pangea Cayman 1A, L.P./1B, L.P.)。市場外の売却は、ゴールドマン・サックス(GSI)やメリルリンチ(MLI)との株式先渡契約などによるもの。市場内で売った1,223万株(2月17日・3月12〜18日)は単価が開示されていない。Cayman2の7,740万株は売却なし。
ベインのファンドの3社は、上場から約1年半で全株を売り切った。
この間キオクシア株はIPO価格1,455円から一時約4,800%上昇し、時価総額は一時56兆円規模まで膨らんでいた。
3社はいくらで売ったのか
報道では、ベインの利益は150億ドル超とされ、ベイン史上でも記録的なリターンになった模様(ブルームバーグ報道)。日経は売却益を約2.5兆円と試算している。いずれも推計で、ベインの発表ではない。
前回の記事の初稿では「BCPE名義の全株×株価」で18兆円と試算していましたが、BCPE名義にはSK hynixの器(Cayman2)も含まれるなどの理由で取り下げました。
変更報告書で実際の売却を足すと、ファンドの3社の売却額は単価判明分で約5兆768億円。ただしこれは売却代金で、3社の中にベイン以外の投資家の持分がどれだけあるか、費用や税、投資家への分配がいくらかは開示されていないので、「ベインの利益」とは言えない。
売却の時期と単価がわかるのは、変更報告書の「最近60日間の取得又は処分の状況」に、日付・株数・単価が載っているから。
2025年11月26日の売却は、3,600万株×8,970.80円=約3,229億円(日経の事前報道では約3,500億円規模)。
2026年2月19日は3,798万株×13,921.09円=約5,287億円で、ブルームバーグの総括の「2月に35億ドル超」と合う。
前半の売却は、今から見るとだいぶ安い。
第8期有価証券報告書によれば、2025年4月〜2026年3月の株価レンジは最低1,510円〜最高24,420円。
つまり2025年11月〜2026年3月に売った1億2,621万株(グループの保有比率は51.64%→27.42%)は高くても2万円台前半で行われており、2026年7月9日終値79,090円と比べると3分の1以下の水準で売っていたことになる。
ただし、最後まで安値売りだったわけではない。
2026年4〜6月は株価が2万円台から急騰していく中での売却で、この3か月の7,203万株だけで約3兆3,746億円。売却額の約3分の2はこの時期の分。最後の売却は6月11日の1A(1,852万株、66,690円)。
変更報告書では、3社の処分はすべて「売却」と書かれていて、市場外の相手はゴールドマン・サックスやメリルリンチで、多くは株式先渡契約。ファンド投資家(LP)への現物分配の記載はない。残っているのはCayman2の7,740万株(約14%)で、これはSK hynixが転換社債を持つ器の株。
前半の安値売り分については「もっと持ってれば良かったのに」と思わなくもないが、PEファンドには一般に投資家への分配期限(ファンド償還期限)があり、どこかで売り切る必要がある。
報道でも記録的なリターンとされていて、大型LBOとしては歴史的な成功案件と言ってよさそう。
なぜ株価は暴落しなかったのか(むしろ急騰した!)
「最大級の株主(ベインのファンド)が売り切った」と聞くと直感では最大株主が売り抜けるなんてなんかやばいんじゃ?、、暴落しそうな気持ちもするんですが、
で、確認してみると実際は逆でした。
報道が出た7月9日のキオクシア株は、
前日終値71,870円から一時79,950円(前日比+8,080円、+11.24%)まで急騰し、
終値も79,090円(+10.0%)と大幅高で引けた(日本経済新聞・株探)。
理由は主に3つ。
- オーバーハング(売り圧力懸念)の解消 — 「ベインがいつ残りを売るか」は上場以来ずっと株価の重しだった?が、ベインのファンド分の売りが終わった、と市場は好感したか(Cayman2と東芝の持ち分は残る)
- 半導体株全体の追い風 — 前日の米フィラデルフィア半導体株指数(SOX)が2%超上昇しており、モメンタム資金(株価の上昇の勢いに乗って買いに来る短期資金)が流入
- TOPIXリバランスのパッシブ買い期待 — 指数の見直しで組み入れ比率が上がり、指数連動ファンドの買いが入るとの観測(仕組みはこの下でかみ砕いて説明)
3つ目の「TOPIXパッシブ買い」とは
TOPIX(東証株価指数)に連動する投資信託や年金マネー=パッシブ運用は、指数の中の銘柄比率どおりに機械的に株を買います。
その比率を決めるのが「浮動株」、つまり市場で自由に売買できる株の量。
ベインのような大株主がガッチリ抱え込んでいる株は、浮動株にカウントされない。
ベインのファンド分が市場に出たことで、浮動株は増える方向にはなる。ただ、指数に反映されるのは見直しのタイミング次第で、Cayman2の約14%も残っている。
見直しで組み入れ比率が上がれば、TOPIX連動ファンドは指数に合わせるためにキオクシア株を機械的に買い増すことになる。
この「入ってくると見込まれる買い注文」について、Investing.comの報道では約3兆円規模の資金流入の可能性が示されている。
ただし試算の主体は記事中に明記されておらず、あくまで観測ベースの数字である点には注意です。
教科書的には「大株主の売り切り=売り材料」でも、需給の文脈次第で真逆に動くという良い例だと思う。
これで売り圧力は消えたのか?
いや、まだ残ってます。
ベインの売却と、役員・従業員のSO(ストックオプション=あらかじめ決めた価格で株を買える権利)は別物!
加えて大きいのが、東芝の残り持ち分!(ただし、前述のTOPIXパッシブ買いあるので相殺?)
そして、Cayman2の7,740万株が残っている。
- SO残存分:残り約501万株(2026年5月末)の行使が続く可能性。第8期有報では行使の急加速が確認されている(行使と売却は別)
- RSU/PSU:2025年導入の株式報酬制度(勤続・業績に応じて株式を交付する仕組み)。構造的に新株発行が続く
- 東芝の残り持ち分:2026年9月7日時点で約7,038万株(12.84%)(東芝の変更報告書)。7月以降も売却が続いている(規模感はこの下で説明)
- Cayman2(SK hynixが転換社債を持つ器):7,740万株(約14%)。SK hynixが社債を転換して持ち続けるのか、売るのかは開示されていない。SK hynixには、2028年まで議決権の15%超を持てないという合意がある(有価証券届出書)
東芝の約7,000万株はどれくらいの重しか
12.84%という比率は、発行済み株式総数(約5億4,800万株)に対する割合。
東芝が2026年9月14日に提出した変更報告書の数字です(第8期末の2026年3月時点では約9,600万株・17.59%だった)。
「いつまでにどれだけ売らなければならない」という法的な期限や義務は開示されていない。ただし大口の売出しやブロック取引を行う際には、その都度「ロックアップ」(一定期間の追加売却を禁止する契約。通常90〜180日)が設定されるのが一般的で、実際には間隔を空けた分散売却に。
残りの約7,038万株は、発行済み株式の約13%にあたる潜在的な売り圧力。
キオクシアの1日の売買代金(活況日で数千億円規模)と比べても、一括ではとても吸収できない規模。だからこそ時間をかけた分散売却になりやすい。
また、前述のTOPIXパッシブ買いは、この売り圧力を相殺する方向に働く。
SO・RSU/PSUの詳細は以下の記事で整理している。
個人投資家としての視点・考察
※以下は筆者個人の見解・考察であり、事実の記載ではありません。
筆者はキオクシア株を保有していないが、半導体・メモリ市況は保有銘柄との関連で日々追っており、本件も一投資家として強い関心を持って見てます。
連日xで上がってくるキオクシア関連ツイートは面白いですね。今回のベインのファンドの売却を弱気シグナルと読む向きもあるかもしれないが、
個人的には、ファンド償還期限による機械的な売却の側面が強いんではと。
PEファンドはどこかで必ず売り切る宿命があり、「会社の先行きを悲観したから売った」とは限らない。これからの注目はCayman2の7,740万株
初稿では「市場で全部売ったとは言っていない。LPへの現物分配なら見えない売り圧力が残るのでは」と書いたが、変更報告書を読むと、ベインのファンド分は証券会社への売却で片付いていて、現物分配でLPに渡った株の心配は、開示を見る限りなさそう。
むしろ気になるのは、残っているCayman2の7,740万株。
SK hynixが転換して持ち続けるなら需給には影響しないし、売るなら東芝と並ぶ大口の売りになる。この器が1%以上動けば変更報告書が出るので、そこは追える。それと注目しているのは、残った需給要因とパッシブ買いの綱引き。
短期の需給イベントより、NAND市況とAI需要という本業のサイクルが株価の主役であることは変わらないはず。今後の注目ポイントは以下の4点。
- 東芝(2026年9月7日時点 約7,038万株)の売却ペース
- SO行使の進捗(第9期有価証券報告書は2027年6月ごろ提出予定。それより早くは2026年11月ごろ提出の半期報告書で途中経過を確認できる)
- NAND価格・AI向けメモリ需要の持続性
- Cayman2(SK hynix)の動き──変更報告書が出るかどうか
まとめ
- ベインのファンドの3社は2026年6月11日までに2億1,360万株を全部売却。単価判明分で売却額は約5兆円(変更報告書)。利益は報道で150億ドル超(推計)
- 3社のゼロは6月の変更報告書で開示済み。Gross氏の「もう持ち分はない」はそれと一致
- 売却の前半(〜2026年3月)は高くても2万円台前半。一方、売却額の約3分の2は株価が急騰した2026年4〜6月の分
- 「最後の約14%」はCayman2(SK hynixが転換社債を持つ器)の株で、売られていない。8月に筆頭株主になった(初稿の現物分配の推測は取り下げ)
- 報道翌日(7月9日)の株価は前日終値71,870円 → 一時 79,950円(+11.24%)と急騰。オーバーハング解消・SOX高・TOPIX見直し期待が重なった
- SO・RSU/PSU・東芝(約7,038万株)、そしてCayman2の7,740万株が残る
参考(報道・出典):
- Bloomberg:米ベイン、キオクシアHD株をすべて売却-記録的な投資リターンに
- 日本経済新聞:キオクシア株価一時11.2%高 「米ベインが全保有株を売却」報道
- 株探:キオクシア急反発、米ベイン保有株売却報道も米半導体株高でモメンタム追従の資金流入
- 日本経済新聞:米ベインキャピタル、キオクシア株を3500億円売却へ(2025年11月)
- Investing.com:キオクシア株が本日急騰した理由とは(TOPIXリバランスの資金流入試算)
- 日本経済新聞:ベイン、キオクシア株売却益2.5兆円 PEファンドの国内案件で最大
- EDINET:BCPE Pangea Cayman, L.P./Cayman2, Ltd.の変更報告書(2025年12月〜2026年6月)、東芝の変更報告書(2026年9月14日)
- キオクシアHD:主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ(2026年8月10日)
※本記事は情報提供を目的としたものであり、投資勧誘・投資助言ではありません。投資は自己責任でお願いします。
修正履歴
2026年9月:大量保有の変更報告書(BCPE Pangea各社・東芝)とキオクシアの適時開示を確認し、売却の時期・株数・単価、「最後の約7,700万株」の扱い(Cayman2の株で未処分)、現物分配の推測(取り下げ)、東芝の保有株数、タイトルを修正しました。ファクトカード画像は内容が古くなったため削除しました。
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