データセンターの水は「消費」?「循環」?蒸発の仕組みと9.3兆Lの中身
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データセンターの水は「消費」?「循環」?蒸発の仕組みと9.3兆Lの中身

先に答えを書いておくと、「屋外」で冷却塔を使うデータセンターは本当に水が減ります。
すなわち「消費」される。
ただ、テレビの「9.3兆L」は、データセンターの敷地内で冷却に使う水を直接数えたものではなく、電気をつくるための水を電力量から換算した推計でした。

先日、たまたまテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」でAIと水の特集を見まして。
おおまかな内容は、

AIの使用に必要なデータセンター(DC)によって大量の水が消費される!!
といった話でした。
例えば、画像1枚の生成に大さじ2杯、複雑な動画1本で4Lの水が「消費される」といった具合に。
そして予測では、2030年に世界中のDCで使用される水は 約9.3兆Lにのぼると。

熱を冷ますのに水冷が必要になるので規模の大きいDCで大量の水が必要になるというのはわかるが、「消費される」というのがどうもしっくりきませんでした。


例えば車やバイクの水冷装置だと、一度冷却水を入れれば水冷冷却の閉ループで水が循環するので、大量に水が消費される といったイメージがわきません、たしかに冷却水の補充や交換はたまに必要ですが、毎回必要というわけでもなく。

最初に大量の水を入れれば済む話じゃないの?と。

データセンター株(IREN)に投資してる身としては見逃せない話です。

この疑問は投資の上でも大事です。
最初に一度水を入れるだけなら、毎日の給水に左右されにくい。
逆に運転中ずっと水を何かしららによって「消費」させているなら、渇水や地域との調整が事業を続けられるかどうかの条件になります。

そこで、冷却の仕組みから、番組の出典だった国連大学の報告書の原文、米国の国立研究所やGoogleの実績データ、IRENの開示まで確かめました。

結論:サーバーまわりの冷却液は「循環」させている。が、屋外は消費ゼロとは限らない。
冷却塔を使う設備は、水を循環させながら一部をわざと蒸発させて熱を捨ててます!
なんと、Googleのデータセンター全体(2025年)では、取水の約78%が排水として戻らない「消費」と計上されてました。
一方、テレビで紹介された「2030年に約9.3兆L」は、データセンターが敷地内の冷却で使う水を数えたものではありません。国連大学の報告書は、これを「必要な電力を生み出すための水」と説明していて、電力量から換算した推計です。

しかもこれはAI以外も含むデータセンター全体の数字で、同じ報告書はAI用途だけなら約3.7兆Lと別に推計してます(2030年にAI用途が電力の40%を占めるという条件)。

以下、詳しく説明していきます。

1.まず分けたい「取水」「消費」「循環」

水のニュースでは、意味の違う数字がまとめて「使用量」と呼ばれがちです。

用語何を表すか何を見るときの数字か
取水川・地下水・水道から取り入れた水の量水源や給水設備に必要な能力
消費蒸発などで、元の川や地下水に戻らなかった量地域で使える水への負担
循環流量配管を単位時間に流れる水の量(L/分など)。1日分を積み上げると、同じ水を何度も数えることになる熱を運ぶ能力
初期充填運転開始時に配管やタンクへ入れる水の量立ち上げ時だけの水需要


米地質調査所(USGS)は、地域の水域や地下水に戻らない水を「消費的使用」と呼び、大気へ蒸発する水もこれに含めるとしてます。Googleも環境報告書の算定方法の欄で「消費=取水−排水」と書いてます。

蒸発した水は地球から消えるわけではなく、いずれどこかで雨になります。ただ、どこにいつ降るかは選べません。だから、水を取った地域から見れば「失われた水」として扱われます(ここは筆者の補足です)。

たとえば1日に100m³を補給して、80m³が蒸発、20m³が排水として地元の水系に戻る設備なら、貯水量の変動などを無視した単純な水収支では、取水100・消費80です。配管の中を何千m³回していても、それを新たな消費とは数えません。

なので「年間○億L」という数字を見たら、まず取水なのか消費なのか、敷地内だけなのか発電まで含むのかを確かめる必要があります。私がポストで書いた「循環用に確保した水を消費と呼んでるのでは?」という理解は、定義の上では違ってました。

2.「閉ループ」でも、その外側で水が蒸発することがある

サーバーの熱を水に移せても、その水が温まり続けたら冷えません。最後はどこかで熱を外に捨てる必要があります。熱の通り道を図にすると、こうなります。

サーバーの熱が最後にどこへ行くかの図解。サーバー・GPUの熱を空気または冷却液で冷却設備へ運び、屋外では蒸発式(冷却塔:蒸発した分が消費になる)か乾式(ドライクーラー:放熱のための蒸発なし)で熱を逃がす
熱の通り道(概念図)。オレンジの矢印は熱の流れで、同じ水が全区間を流れるわけではありません。米エネルギー省の解説をもとに筆者作成

これは熱の通り道で、同じ水が全区間を流れるという意味ではありません。
途中で別の水の回路や冷媒の回路を何段かはさむのが普通です。米エネルギー省(DOE)のデータセンター冷却の解説でも、チップを冷やす閉じた水の回路が冷却液分配装置(CDU)まで熱を運び、そのあと開放型の冷却塔で大気に捨てる構成が紹介されてます。

ここがポイントです。サーバー側の回路が密閉されていても、屋外側で「開放式」冷却塔を使えば、そこで水は蒸発します。 企業資料の「closed-loop(閉ループ)」を読むときは、どの回路が閉じていて、最後の放熱を何でやっているのかまで見る必要があります。

液冷サーバーと屋外設備のつながりの図解。上は開放式冷却塔の例で、施設側の循環水を散水して外気と接触させ一部が蒸発する。下はドライクーラーの例で、施設側の閉ループの冷却液をフィン付きの管に通し、ファンで外気を当てて蒸発させずに放熱する
液冷サーバーの場合の構成例(ポンプ・弁などは省略)。上が開放式冷却塔、下がドライクーラー。米エネルギー省の解説・Traneの資料をもとに筆者作成

上の段の開放式冷却塔は、施設側の循環水そのものを上から散らして、下から吸い込んだ外気に直接触れさせます。このとき一部が蒸発して、その気化熱で残りの水が冷えます。

※なお、冷却塔には「密閉式」もあります。施設側の冷却液は管(コイル)の中を通って空気に触れませんが、その管の外側に、塔の中だけで回している別の水をかけて冷やします。かけた水の一部はやはり蒸発して消費されます(米エネルギー省の冷却塔の資料)。図は開放式の例です。

下の段のドライクーラーは、車のラジエーターと同じ仕組みです。施設側の冷却液をフィンの付いた管に通し、ファンで外気を当てて熱を空気へ逃がします。冷却液は管の中にとどまって空気に触れないので、蒸発しません(Traneの資料)。そのかわり、水の蒸発を使わない乾式運転では、ドライクーラー単体で冷却液を外気温より低く冷やせないので、猛暑時の余裕は設計次第です。必要な冷却能力を保つために、ファンの風量を増やしたり、チラー(冷凍機)を組み合わせたりします。暑い日だけ、濡らしたパッドに外気を通して、水の蒸発で吸い込む空気を冷やす「断熱補助」付きの機種もあり、その間は水を使います(同じ資料)。

冒頭の車やバイクの水冷の感覚が当てはまるのは、このドライクーラー型です。一度入れた冷却液が回り続けるだけなので、大量に「消費」されるイメージがわかなかったのは、この型については合ってました。
違うのは冷却塔型で、開放式でも密閉式でも、冷やすためにわざと水を蒸発させてるので、その分だけ本当に減ります。

冷却塔では、蒸発で残った水のミネラルが濃くなるので、一部を捨てて新しい水と入れ替えます(ブローダウン)。DOEの冷却塔の水管理の解説では、水の出入りをこう整理してます(定常運転で、漏水などを除いた場合)。

補給水 = 蒸発 + ブローダウン(排水) + 飛散(風で飛ぶ水滴)

ブローダウンは補給する水を増やしますが、排水として地域に戻る分については、蒸発による消費とは分けて考えます。水処理を工夫すればブローダウンは減らせますが、冷やすための蒸発そのものはなくせません。

3.「空冷か液冷か」だけでは水の量は決まらない

空冷・液冷という言葉は、どこの話かで意味が変わります。サーバーを空気で冷やしていても、建物側の冷凍機が冷却塔で水を蒸発させていることがあります。逆に、チップを液体で冷やして、最後はドライクーラーで捨てる構成もあります。

サーバーから熱を取る方法屋外へ熱を捨てる方法水について言えること
空気冷却塔を使う冷凍機などサーバーが空冷でも、蒸発で水を補給し続ける
チップ直接液冷冷却塔などの蒸発式「液冷」という名前だけでは節水にならない
チップ直接液冷ドライクーラー(フィン付きの管+ファン)や空冷式冷凍機冷却のための継続的な蒸発を避けられる
どちらでも乾式と蒸発式を切り替える季節や気温で水の量が変わる
方式の整理で、個別の施設の仕様ではありません。


施設別の報告値も見てみます。Googleの2026年環境報告書の巻末表から抜き出しました。

2025年取水 → 排水消費(取水比)
Googleのデータセンター全体約513億L → 約115億L約398億L(78%)
米アイオワ州カウンシルブラフス約66億L → 約15億L約51億L(77%)
千葉県印西市約3.6億L → 約0.8億L約2.8億L(77%)
アイルランド・ダブリン(空冷)約189万L → 約151万L約38万L
報告書pp.96–97の単位は百万米液量ガロン。1米液量ガロン=3.785411784Lで筆者が換算し、表示を丸めました。ダブリンは報告書の注記で「空冷の施設」とされている拠点。


Googleのデータセンター全体では、取水の約77.6%を「消費」と計上してます。これは、取水から排水を差し引いた消費量を、取水量で割った比率で、蒸発だけを測った比率ではありません。報告書pp.87–88には、一部の水量を推定する方法も書かれてます。

ダブリンの消費量は小さいものの、この表には各拠点のIT電力量がありません。絶対量の差を、そのまま冷却方式の効率の差とは読めません。印西の消費量を、日本の生活用水使用量(1人1日262L、後述)で割ると約2,900人分です。ただし、消費量と使用量は異なる指標なので、あくまで量の目安です。

4.テレビの「9.3兆L」は何を数えていたのか

ここからがポストの本題。番組の出典は、国連大学 水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)が2026年6月3日に出した報告書「Environmental Cost of AI’s Energy Use」です。原文33ページにはこうあります。

The average water footprint of producing the required electricity is about 9.32 trillion liters

(必要な電力を生み出すための平均的な水のフットプリントは約9.32兆リットル)

「電力を生み出すための」水です。報告書は、データセンターの電力量に、世界平均の「発電1kWhあたりの水」を掛けて計算してます。実際、報告書の数字を電力量で割ると、全部ほぼ同じ係数になります。

報告書の数字電力量 → 水1kWhあたり
AI画像1枚2.9Wh → 28.6mL(大さじ2杯)約9.9L
複雑なAI動画1本415Wh超 → 4.1L約9.9L
2025年の世界のデータセンター448TWh → 約4.5兆L約10.0L
2030年の予測945TWh → 約9.32兆L約9.9L
報告書p.9〜11、p.32〜33。右列は筆者計算。


この報告書の水量は、電力使用量を水フットプリントに換算した推計です。生成のたびに水を測った数字ではなく、すべての画像・動画で同じ電力や水を使うという意味でもありません。

もう一つ見落としやすいのが、9.32兆LはAI以外も含むデータセンター全体の数字だということ。
同じp.33で、2030年にAI用途が電力の40%を占めるという前提で、AI用途だけの水を約3.7兆L(378TWh分)と別に推計してます。番組の画面も「世界中のデータセンターで使用される水」となってました。

発電に水がいるのは、火力・原子力発電所の冷却と、水力発電ダムの水面からの蒸発のためです。
テレビで数字を見た時は、そこまでいれず、ただデータセンター内での水の消費量だと思っていました。発電所側の冷却と水面からの蒸発まで計算にいれてるのはしっかりしてますね。

報告書自身が、水力の比率が高いブラジル・カナダ・スイス・スウェーデンは1kWhあたりの水が世界平均の2倍以上と書いてます。ダム湖は治水や農業用水も兼ねることがあり、蒸発量を用途間でどう配分するかによって結果が変わります。また、平均係数で割り当てた水量は、AI需要が増えたために追加で蒸発した水量と同じではありません。

別の研究では、敷地内の直接消費と電力由来の間接消費を分けて推計してます。世界2030年の9.32兆Lの内訳とは区別して見てみます。
米ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)の2024年報告書(p.55〜58)が、米国のデータセンター全体(2023年)を分けて推計してます。

米国データセンター 2023年水の消費
直接(敷地内の冷却など)約660億L
間接(発電所側)約8,000億L
直接の割合約8%(筆者計算)


ただし間接分は水道メーターの合計ではなく、地域の電源構成から計算した推計です(データセンターが使った電力1kWhあたり約4.52L)。電力購入契約や敷地内の発電は反映されてません。また、これは米国・2023年・LBNLのモデルの数字なので、この約8%を世界の9.32兆Lに当てはめて内訳を出すことはできません。
「発電側の水のほうがずっと大きくなりうる」という規模感の参考です。

AIへの質問1回でも、測定範囲の確認が必要です。
Googleは、2025年5月時点のGemini Appsへのテキスト質問1回の中央値として電力0.24Wh・水0.26mLを公表しています。水は敷地内の冷却に伴う値で、発電側の水を含めていません。

仮に0.24Whに国連大学の数値から逆算した世界平均係数を掛けると、電力由来分は約2.4mLになります。ただし、これはGoogleの実際の電源条件で算定した値でも、直接分0.26mLを含む合計でもありません。対象の条件まで変えているため、「数える範囲を広げれば実際の消費が約10倍」とは言えません。

最後に「13億人分」。報告書はWHOなどの資料を参照し、1人1日20Lという条件で比較してます。9.32兆L÷(20L×365日)で約12.8億人分です。これは報告書が採用した換算条件であり、実際の地域住民の平均使用量や、あらゆる衛生需要を満たす量と同じではありません。

日本の生活用水使用量は1人1日262L(国土交通省、2020年度、有効水量ベース)。これで割ると約9,700万人分になります。ただし、262Lは使用後に排水として戻る分や営業用水なども含む「使用量」です。「消費量」とは指標が異なるため、量の目安にとどめるべき比較です。同じ人数の給水が奪われる、同じ環境負荷が生じるという意味ではありません。

5.50MWの施設ならどれくらい?WUEで見積もる

施設ごとの水の効率を表す指標がWUE(水利用効率)です。

WUE = 施設の水の量[L]÷ IT機器の電力量[kWh]

分母は建物全体ではなくIT機器の電力です。分子が取水なのか消費なのかも、資料によって違います。実際、Microsoftの2024年のブログは、本文でWUEを「冷却と加湿の水の消費量÷IT電力」と説明する一方、脚注では0.30L/kWhを「取水ベース」と明記してます。
本文と脚注で用語にずれがあるため、0.30を消費ベースへ勝手に読み替えず、数値ごとの算定範囲を確認する必要があります。

以下は特定企業の実績ではなく、規模感をつかむための仮定計算です。
50MWにしたのは、IRENがMicrosoftに引き渡したHorizon 1と同じ規模(IT負荷50MW)だからです。
IT機器が50MWで1年間フルに動くと、IT電力量は4億3,800万kWh。

仮定したWUE年間の水1日あたり
0.1 L/kWh4,380万L120m³
0.5 L/kWh2億1,900万L600m³
1.0 L/kWh4億3,800万L1,200m³

参考になる公表値・モデル推計・仮定計算を挙げます。算定条件が違うため、単純な効率ランキングにはできません。

  • 米国データセンターの平均:約0.36L/kWh(2023年、LBNLのモデル推計、報告書p.48)
  • Microsoftが公表したデータセンターの平均WUE:0.27L/kWh(2025年、同社ブログ 2026年6月24日)
  • 日本データセンター協会(JDCC)の地域共生ガイドライン(p.12):ITロード30MWで「水の気化熱だけに頼る」場合、日量700〜1,500トンの試算。30MWのIT負荷が24時間続くと仮定すると、WUEに相当する値は約1.0〜2.1L/kWh(筆者計算。運用実績ではありません)

注意点が3つあります。

  • この計算は50MWが1年中フルに使われた場合です。実際に効いてくるのは平均して実際に使ったIT電力で、ふつうはこれより小さくなります。契約上の受電容量や建設予定のMWをそのまま入れると過大になります
  • 年間の数字を365で割った平均は、真夏の最大の日の給水量を表しません
  • 効率と総量は別です。IT電力が2倍になってWUEが3割改善しても、水は2×0.7=1.4倍に増えます

6.深刻さはリットル数より「どこで、いつ取るか」

国連大学の報告書も、取水の一部が戻されるとしても、大規模な取水の量とタイミングが乾燥地域の帯水層や川に大きな負担をかけうる、と書いてます(p.36)。水源に余裕がある時期と、住民・農業・工業が同じ水を必要とする渇水期では、同じ1Lでも意味が違います。

実際に水が事業の日程に響いた例が、チリのCerrillos Data Centerです。
チリの第2環境裁判所は2024年2月27日、環境承認を一部取り消し、水資源への影響を気候変動を踏まえて評価し直すよう命じました。判決は、追加の承認が出るまで事業を実施できないとしたものです。事業者は2022年2月に、水を使う冷却塔を空冷式に替える相談を当局にしてました。

対策は冷却設備だけではありません。Microsoftは2026年6月のブログで、米バージニア州リースバーグのデータセンター近くで2,500万ドル超の上下水道の改善費を負担していると説明してます。再生水などへの切り替えも進めてますが、再生水に替えても蒸発する量が減るわけではない点は分けて考える必要があります。

もう一つややこしいのが、水を減らすと電気が増えがちなこと。
Microsoftは2024年に、チップを直接冷やして冷却で水を蒸発させない設計を発表しましたが、蒸発式を機械式の冷却に替えるとPUE(電力使用効率=施設全体の電力÷IT機器の電力。1.0に近いほど、冷却などに回る電気が少ない)が上がり、年間のエネルギー使用量はわずかに増えると認めてます。
同じ電源条件で計算するなら、電気の増加は4章の「発電側の水」の推計も増やします。実際の増減は供給電源や運転条件によるため、敷地内で減らした水と合わせて評価する必要があります。

7.投資家にとっての水リスク

以下は冷却技術と事業構造から整理した考え方で、実際に起きた損失の一覧ではありません。

起こりうること業績への響き方確認したい開示
水源・給水能力の確保が遅れる稼働開始と売上計上の後ずれ給水契約、工事の進み具合
節水のため冷却設計を変える追加の設備投資、工期、電力の増加変更前後の仕様、費用の負担者
猛暑で冷却能力が足りなくなる計算能力の制限、顧客との契約への影響設計外気温、冗長性
地域との調整が長引く増設や許認可の遅れ説明会、地域合意


節水にもコストがかかります。PUEは6章で触れたとおり「施設全体の電力÷IT機器の電力」で、たとえば1.20なら、計算に使う電気の2割分を、冷却や電源のロスなど計算以外に余計に使っている状態です。
仮に平均IT負荷50MWの施設(Horizon 1と同じ規模)で、PUEが1.20から1.25に上がると、追加の電力は平均2.5MW、年間2,190万kWh。1kWhあたり0.05ドルと仮定すると年間約110万ドル(2026年10月9日時点の1ドル=約158円で換算すると、約1.7億円)です(仮定にもとづく感応度の計算で、実測の差ではありません)。

8.IRENについて、公開資料から言えること

ここが私にとって一番気になるところ。

テキサス州チルドレスのMicrosoft向けAI設備は、会社の説明では閉ループの液冷です。

  • IRENのデビッド・ショーCOOは、「閉ループの液冷で設計している」「最初に満たす必要はあるが、日々・毎週の継続的な水の使用はない」と説明。満たす水については「地元の水は使わない」としてます(KVII、2026年6月3日)
  • 地元局は、IRENのプレスリリースとして「年間の補充は住宅数軒分程度の見込み」、水は地元の水道系統の外からトラックで運んでいると報道(KFDA、2026年5月18日)
  • 2025年7月の月次報告では、チルドレスの液冷拡張に向けて冷凍機・ドライクーラー・CDUなどを調達中としてました(IREN July 2025 Monthly Update)
  • 2026年8月にMicrosoftへ引き渡した「Horizon 1」は、50MW(IT負荷)のチップ直接液冷(IRENプレスリリース)

2章の話と合わせると、「閉ループの液冷+ドライクーラーで放熱」という、冷却で水を蒸発させ続けない設計がうかがえます。

ただし、調達品目だけでは、完成後の全フェーズの構成や、猛暑の日に蒸発で補助するかどうかまでは分かりません。今回確認した資料では、拠点ごとのWUEや年間の取水・消費の実績も見つかりませんでした。「地元の水は使わない」も最初に満たす水と地元の水道系統についての説明で、トイレなどの生活用水を含めた全部の水がゼロという意味ではありません。

2026年6月期の年次報告書(10-K)も見ておきます。

  • 冷却は「チップ直接液冷」「外気冷却に冷水コイルを補助で組み合わせる」など複数の方式を使い、液冷のデータセンターには閉ループの冷却を組み込んでいる
  • リスク要因として、豪州のBundey拠点は冷却に安定した良質の水が必要になり、干ばつや水の配分の変更でコストが大きく増えうる、と書いている。どんな冷却方式を使うかは書かれていません(閉ループの補充の話なのか、毎日の取水に頼る方式なのかは、この記述からは分かりません)
  • 米オクラホマ州のSB 259(2026年11月1日施行予定)にも触れている。開放型の蒸発冷却などへの地下水利用を禁じ、地下水の許可には循環を主体とする低消費型の冷却技術を条件としている。州議会の成立法文第2条A(11)では、許可の条件として「閉ループ、絶縁液への浸漬冷却など」が名指しされてます。地下水を対象とした規制で、あらゆる水源の冷却利用を一律に禁止するものではありません

つまり、チルドレスが閉ループでも、会社全体が水と無縁とは言えない。水の条件は拠点ごとに違う、ということが会社の開示自体から読み取れます。

投資家として追加で確かめたいのは次の5点です。

  1. 拠点・フェーズごとの放熱方式:ドライクーラー、空冷式冷凍機、冷却塔、蒸発の補助の有無
  2. 実際の水の量:年間の取水・消費・WUEと、その範囲
  3. 夏の設計条件:最大の補給水量、猛暑時の冷却性能
  4. 給水の確実性:水源、契約量、制限がかかる条件(特に豪州・オクラホマ)
  5. 費用の負担者:節水設備や追加電力を誰が負担するか

IRENの過去の決算や計画については、FY26決算の記事やラッセル1000採用の記事にもまとめてます。

9.日本のデータセンターも同じ見方が必要

日本データセンター協会(JDCC)は、国内のデータセンター事業者などでつくる業界団体(NPO)です。国と民間の「ワット・ビット連携官民懇談会」が2025年6月に示した方針を受けて、2026年5月に地域共生ガイドラインを出しました。日本の事業者側が、水の使い方を地域にどう説明しようとしているかが分かる数少ない資料なので取り上げます。
このガイドライン(p.12)は、水の使い方を地域の住民に説明すべき事項として挙げてます。国内では米国のように「水の気化熱だけ」に頼る空調は多くないとしつつ、地盤沈下・井戸の水・水道の設備増強といった住民の疑問に答える必要があるとしてます。

「日本は雨が多いから大丈夫」も、「海外で大量に使ってるから日本も同じ」も飛躍があります。見るべきは、その施設の方式、その地域の水源、季節ごとの需給、インフラの余力です。

まとめ

  • 「消費」は蒸発などで戻らなかった水。循環している水は数えない
  • 閉ループでも、最後に冷却塔で熱を捨てれば水は蒸発する。
    Googleのデータセンター全体では取水の約78%を「消費」と計上
  • テレビの9.3兆Lは「必要な電力を生み出すための水」を電力量×約9.9L/kWhで換算した推計。AI以外も含むデータセンター全体の数字で、AI用途だけなら約3.7兆L
  • 別の研究(米国2023年)では、敷地内の直接分は全体の約8%。発電側の水のほうがずっと大きくなりうる
  • 本当の問題は総量より、水が足りない場所・時期に取るかどうか
  • IRENのチルドレスには閉ループ液冷の説明があり、初期充填の水は地元の系統外から調達するとしてます。ただし拠点ごとの水の量は今回の資料では確認できず。10-Kには豪州やオクラホマの水リスクも書かれている

「何を数えた数字か」を知らないと、2030年の電力由来の推計を、データセンターが毎年冷却で蒸発させる水と取り違えてしまう 可能性。
循環してるかどうかだけじゃなく、最後の放熱方式と数字の範囲まで見ないといけません!
そこが今回いちばんの発見でした。

よくある質問

Q. 閉ループなら水問題は解決?

A. 最後の放熱にも蒸発を使わない構成なら、冷却のための継続的な水消費を小さくできます。初期充填・保守・生活用水は別です。電力が増える設計では供給側の水への影響も確認が必要です。閉ループでも、別の回路の冷却塔で放熱するなら水は蒸発します。

Q. 「AI動画1本で4L」は本当?

A. 国連大学の報告書は、長尺・高解像度など負荷の大きい動画生成の例として4.1Lを示してます。動画1本415Wh超という電力量に世界平均の係数を当てはめた推計で、すべての動画に共通する値ではありません。これは電力をつくるための水の推計で、データセンターの蛇口から4L出ていくという意味ではない。

Q. データセンターの冷却水は飲み水?

A. 拠点によります。Googleの報告書は、特に断りがなければ取水は「上水」(potable water=飲めるレベルまで処理された水道水など)としてますが、米ジョージア州ダグラス郡のように取水の大半を処理済みの下水でまかなう拠点もあります。

参考資料(一次資料・取材報道)

※本記事は情報提供を目的としたものであり、投資勧誘・投資助言ではありません。投資は自己責任でお願いします。記載の数値は公表資料に基づく執筆時点(2026年10月9日)のものです。

Liquid_snake この記事を書いた人

東京工業大学(現・Institute of Science Tokyo)大学院 機械系 修士課程修了、修士(工学)。バイク・株・PC・ガジェット・旅行について、自分で試したこと・調べたことだけを書いています。愛車は刀とDR650SE。2013年から16カ国を訪問。株は調べ尽くしたうえで、最後は直感で買います。

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