キオクシアのストックオプション全解剖 有報データ分析 アイキャッチ
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キオクシアのストックオプション全解剖|誰が何株持ち、いつ売れて、株価にどう影響するか【有報データ分析】

前回の記事

キオクシア社長のストックオプション(SO)行使タイミングについて書いたところそこそこアクセスがあったので、続編として有価証券報告書(2025年6月提出・第7期

金融庁の「金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム」

EDINET ↓ 無料でみれます

https://www.fsa.go.jp/search/20130917.html

https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/WEEK0010.aspx

から数字を拾い「キオクシアのSOは全体でどれくらいあるのか」「誰が持っているのか」「いつ売れるのか」「全部売られたら株価にどう影響するか」を整理してみた。

なお、2026年6月最新の有価証券報告書まとめは以下。←2026/6/27追記

キオクシアの全SO発行回数・株数は?

有報の「新株予約権等の状況」を確認したところ、SOは計8回(第1〜9回、第6回なし)に分けて付与されており、全て2019年3月12日決議

なぜ8回に分けているかというと、全て同日決議なので実質「一斉付与」。回を分けた理由は対象者グループごとに権利確定条件・行使条件を変えるためか。

第1回は全社員向け(取締役1名+執行役員・従業員33名、子会社役員・従業員584名)、第2回は上位役員向け(取締役2名+執行役員4名+子会社役員84名)、第3回以降は子会社役員や特定グループ向けとなっている。

なお各回のSO1個は60株に対応している。

これは2020年8月にキオクシアが実施した1株→60株の株式分割によるもので、付与時(2019年3月)は1個=1株だったが分割後に自動的に1個=60株に調整された。行使価額も同様に1/60に調整されている(分割前の行使価額≒100,020円 → 分割後1,667円)。

主な付与対象 対象株式数 行使価額 行使開始
第1回 取締役1名、執行役員・従業員33名、子会社役員・従業員584名 約631万株 1,667円 2021年3月31日〜
第2回 取締役2名、執行役員4名、子会社役員・従業員84名 約448万株 1,667円 2020年3月31日〜
第3回 子会社役員・執行役員3名 約62万株 1,738円 2020年3月31日〜
第4回 執行役員・従業員11名、子会社役員・従業員 約13万株 1,667円 2021年3月31日〜
第5回 執行役員1名 約9万株 1,667円 2020年3月31日〜
第7回 子会社役員・従業員9名 約25万株 1,667円
第8回 子会社役員・従業員 約39万株
第9回 子会社役員・従業員 約58万株
合計 約1,286万株 全て2029年3月11日まで

誰がいくら持っているか

有価証券報告書には個人別のSO保有数の記載はないです。役員の報酬総額は開示されているが(早坂前社長は2024年度で1.2億円)、SO保有数は有報上では確認できず。

Xの投稿(@minto_kun0617)で「早坂社長はSOで約372,000株保有」という情報が拡散し少し話題になっていたが

有価証券届出書(2024年11月8日)を確認したところ372,600株(6,210個)とあり!

参考として372,600株を現在株価で計算すると:

  • 総SO残(約1,286万株)に対する比率:約2.9%
  • 行使価額との差益:(96,000 − 1,667) × 372,600 ≒ 約352億円(税引き前)

また設立当初(SO付与当時の2019年3月)の役員は有報の略歴から確認できる範囲で以下のとおりだ。キオクシアホールディングス株式会社は2019年3月1日設立(単独株式移転)で、SO付与(3月12日)は設立からわずか11日後。

氏名 役職 備考
Stacy J. Smith(ステイシー・スミス) 取締役 会長執行役員 元Intel。2019年3月就任確認
末包昌司 社外取締役 ベインキャピタル・ジャパン パートナー。2019年3月就任
鈴木洋 社外取締役 HOYA代表取締役。2019年3月就任
森田功 社外常勤監査役 元東芝。2019年3月就任
畑野耕逸 社外監査役 2019年3月就任

早坂伸夫(前社長)は当時「当社(キオクシアHD)」の役員ではなく、子会社・東芝メモリ㈱の副社長だった。「当社」役員への就任は2019年7月。SO付与時の区分は「当社子会社の役員」として対象になっている。なお末包昌司(ベインキャピタル)が社外取締役として入っているが、ベイン本体はSOではなく株式を直接保有しているためSOの対象にはなっていない。

行使条件:いつから売れるのか

有報に明記されている行使条件の核心は以下の1点。

本新株予約権者は、新株予約権割当契約書に定めるスケジュールに従って権利確定した本新株予約権は、IPOをもって行使可能となる。

キオクシアは2024年12月18日に東証プライムに上場(IPO価格1,455円)しているため、権利確定済みのSOは現時点で全て行使可能な状態にある。ただし以下の制約あり。

  • 行使期限:全回共通で2029年3月11日まで。これを過ぎると権利消滅
  • インサイダー規制:未公表の重要情報(決算など)を持つ期間は売買不可。一般的に決算発表の約4週間前から発表日まで ←内部情報をしってれば売りたくなるタイミングですね
  • 役員の開示義務:大量売却は市場に開示される。印象上も分割・退任後の売却が一般的

インサイダー規制の「窓」はキオクシア(3月末・9月末決算)の場合、年2回開く:

決算 発表時期(目安) 窓が開くタイミング
本決算(3月期) 5〜6月 発表翌日〜次の禁止期間まで
半期決算(9月期) 10〜11月 発表翌日〜次の禁止期間まで

早坂氏は2026年4月に代表取締役を退任しシニア・エグゼクティブ・アドバイザーに就任。

2026年6月の定時株主総会後にはその役職も終了する見込みで、インサイダー規制上の制約が大幅に緩和されるタイミングが近いですね。

もし全SO行使株が売却された場合、株価はどうなるか

希薄化(ダイリューション)

現在の発行済み株式数は約5億4,724万株(2026年6月時点)。SO全量が行使されると発行済み株式が約2.35%増え、既存株主の持ち分がその分薄まる。

1,286万株 ÷ 5億4,724万株 ≈ 2.35%の希薄化

ただし一度に全量が売却されることはなく、実際には2029年3月の期限に向けて数年かけて分散される。

売り圧力(金額ベース)

1,286万株 × 96,000円 ≈ 1.23兆円の売り注文が市場に出てくる可能性がある。

なお総SO株数(約1,286万株) × 行使価額(主に1,667円) ≈ 214億円を払い込んだ上での売却になるため、SO保有者の手取り利益は約1.21兆円(税引き前)。

📚 半導体戦争(クリス・ミラー著)|なぜキオクシア株がここまで上がったのか、半導体業界の国家間競争を平易に解説した世界的名著。

1.23兆円の売り圧力は実際どの程度の影響か

  • 時価総額比:キオクシアの時価総額は約52.7兆円。1.23兆円はその約2.3%。全量が一度に売られた場合、単純計算で株価が2%以上下落する圧力になりうる
  • 期間で割ると:残り行使期間を約3年とすると年間約4,100億円、250営業日で割ると1日あたり約16億円の潜在的売り圧力。参考までにキオクシアの実際の1日売買代金は約4,393億円(2026年6月23日時点)で、この日に限れば16億円はその約0.4%。ただしこれは出来高が多かった1日の数字であり、「必ず吸収できる」とは断言できない。あくまで桁感の目安として捉えてほしい
  • 実際の先行事例:招集通知より、Stacy Smithはすでに2024/4〜2025/3の1年間で約45億円分(推定273万株)を行使・売却済み。この規模は市場に大きな混乱をもたらしていない
  • 一括売却リスク:大量保有者が短期間に集中売却した場合は需給悪化の可能性。特に早坂氏・Stacy Smithが退任直後にまとめて動いた場合や、2029年3月の期限直前に駆け込みが重なった場合は要注意

結局、株価はどうなるか

結論から言えば、「いつ売られるか」の問題であり「売られるかどうか」ではない。SO保有者が2029年3月11日の期限までに行使・売却しなければ権利は消滅し、含み益は全て消える。これだけの利益を捨てる人はいないため、1.23兆円の売り圧力は確実に市場に出てくる。

シナリオ別の株価への影響仮説:

  • 分散売却シナリオ(ベースケース):年間約4,100億円を3年かけて分散。業績が好調であれば市場は吸収し、株価への直接影響は限定的か
  • 集中売却シナリオ(悲観ケース):Stacy Smith(3,105,000株)や早坂氏(372,600株)が退任直後に短期集中売却した場合、需給が崩れて一時的な株価下落が起きる可能性がある。特にStacy Smithが全量売却すれば約2,980億円が短期間に市場に出ることになり、相応のインパクトが生じるのでは(笑)
  • 2029年3月前の駆け込みシナリオ:期限が近づくにつれ、それまで動かなかった保有者も売却に動く。複数の売りが重なれば需給悪化の可能性がある。2028年後半あたりから注視が必要。ただ個人的には、半導体業界に長年いれば業界全体のメモリ需給サイクルは公開情報からある程度読めるはずで、仮に現在の高NANDサイクルが2026〜2027年に転換すると読むなら、期限まで待たずに高値のうちに売り始めるなんてことも。2026年度中に動き始めるシナリオも十分ありうる。

ただし株価は需給だけで決まるわけではなく、業績・NAND市況・AI需要などのファンダメンタルズが上回れば売り圧力を吸収できる。SO由来の売りは「下方向の圧力要因の一つ」として捉えるのが適切か。

📚 ビジネスエリートになるための教養としての投資(奥野一成著)|キオクシアSOのような株式報酬・株式投資に興味を持った方への入門書。長期投資の本質を平易に解説。

現実的なタイムライン

  • 早坂氏は2026年6月総会後に完全退任予定 → 2026年夏以降が売却の自由度が高まる最初のタイミング
  • Stacy Smithはすでに2024〜2025年に大量行使済み。今後も継続する可能性
  • 2029年3月11日が最終期限。2028〜2029年にかけて駆け込み売却が増える可能性

すでにSO行使が始まっている

半期報告書(2025年11月提出)によると、2025年4月1日〜9月30日の期間だけで新株予約権の行使により391,320株が新規発行されており、有報には「普通株式並びに資本金及び資本準備金の増加は、新株予約権の行使によるものであります」と明記されている。

発行済み株式数の推移は:
・2025年9月30日時点:約5億3,974万株
・2026年6月23日時点:約5億4,724万株(約750万株増)

ただし750万株全部がSO行使とは断言できない。2025/4〜9の391,320株はSO行使と確認済みだが、残り約711万株(2025/10〜2026/6分)は第8期有報(2026年6月末提出予定)が出ていないため未確認。

また2025年6月の定時株主総会でRSU・PSU(株式報酬)が新たに承認されており、これも株式交付を伴うため発行済み株式数が増える要因になりうる。

IPO後わずか1年余りで行使が始まっていることは確かだが、増加分の全てがSO行使とは断定できない。

で、次の報告書はいつ・どこで見られるか

書類 対象期間 提出時期
有価証券報告書(第8期) 2025/4〜2026/3 2026年6月末ごろ(今月やん)
半期報告書(第8期前半) 2025/4〜2025/9 2025年11月(提出済み)

2025年10月〜2026年3月のSO行使状況は2026年6月提出の第8期有報で確認できる。EDINETでコード「E35948」を検索すれば無料で閲覧できる。
確認でき次第、また記事書きます。

書きました↓
2026年6月最新の有価証券報告書まとめは以下。←2026/6/27追記

まとめ

    • キオクシアのSOは全8回・計約1,286万株、全て2019年に付与・IPO(2024年12月)後から行使可能
    • 行使価額は主に1,667円(2020年の株式分割後調整済み)で、現在株価(約96,000円)との差が約94,000円!!
    • 行使期限は2029年3月11日。この期限が最大のタイムリミット
    • 早坂前社長のSO保有数は公開情報で約372,600株とされ、含み益は約352億円(税引き前)。ただし有報での個人別開示は確認できていない
    • 全量行使・売却された場合の売り圧力は約1.23兆円、希薄化率は約2.35%
    • 2028〜2029年にかけて期限前の売却圧力が高まる可能性がある ただ個人的には、仮に現在の高NANDサイクルが2026〜2027年に転換すると読むなら、期限まで待たずに高値のうちに売り始めるなんて

なお、本記事は有価証券報告書(2025年6月提出)の公開情報をもとにした一般的な情報整理であり、投資助言ではありません。数値は報告書記載の時点のものであり、その後の行使により変動している可能性があります。


関連書籍

📚 半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防(クリス・ミラー著)|キオクシアを巡る半導体業界の地政学を平易に解説した世界的ベストセラー。業界の背景を深く知りたい方に。

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