SpaceXの宇宙データセンター構想とは?地上と軌道の二段構えと冷却・打ち上げの疑問
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SpaceXの宇宙データセンター構想とは?地上と軌道の二段構えと冷却・打ち上げの疑問

先に答えを書いておくと、マスク氏の会社(SpaceX)は2つを並行して進めてます。
「地上のAIデータセンターの拡大」と「太陽光で動く計算衛星を軌道に並べる構想」です。
筆者はこれを「地上と軌道の二段構え」と整理しました。

SpaceXが並行して進める、地上のAIデータセンターと軌道の計算衛星の2つの構想
地上と軌道、2つの構想(イメージ図・左の建物は実在の施設ではありません)

SpaceXの衛星は2026年6月の初期案で、計算機部分の電力が1機あたり平均約120kW(キロワット)。
FCC(米連邦通信委員会)にはなんと、、
最大100万機を申請してます!!
全機を120kWと仮定して単純に掛けると、120GW(ギガワット=100万kW)になります。

(FCCは、アメリカで衛星通信などの電波の利用を許可する機関です。
今回の衛星も予備の通信に電波を使うので、ここに申請してます)

ただし、時期も仕様もまだ「計画」。
6月の会社説明では、早ければ2027年に衛星の構成要素を飛ばして実証、展開開始は早ければ2028年。

8月の発表を伝える報道では早ければ2027年に初期展開とされてて、日程も動いてます。
どれも実績ではありません。

マスク構想を調べたきっかけ

きっかけは、Xで流れてきたこのポスト。


$IRENの強気アカウント「IREN Bull」さんのポストです。*マスク氏の返信そのものに$IRENは出てきません。私がIRENを好きなのでタイムラインにIREN関連風ポストが流れてきただけ。

ざっくり訳すと、
「イーロンは分かってる。業界の内側にいる人もだいたい分かってる。でもイーロンが言うとおり、ほとんどの人は何も分かってない」
という内容。

このポストが引用してる投稿では、$IREN(IREN)・$NBIS(Nebius)・$CRWV(CoreWeave)が挙げられてます。
どれもAI向けのデータセンター・クラウドの会社で、「AIデータセンター需要はまだ序章だ」という主張でした。

元になったのは、2026年10月8日ごろのイーロン・マスク氏の返信ポスト。

Box(クラウドのファイル共有サービスの会社)のCEO、アーロン・レヴィ氏がこう投稿してました。
「次のAIの段階で必要になる計算資源はinsane(とんでもない量)になる」

そこにマスク氏が一言だけ、
「People have no idea(みんな分かってない)」
と返した
ものです。

レヴィ氏の投稿で挙がってたのは、こんなものです。

  • 一人ひとりに付く個人エージェント
  • 企業を守るエージェント群
  • コード全体のセキュリティ検査
  • ほぼすべての業務データの処理
  • 24時間動き続けるバックグラウンドエージェント

ここでいうエージェントは、人が指示を出すたびに答えるだけじゃなく、自分で作業を続けるAIのことです。

推論(AIが答えを出す計算)の量は桁で増える。
トークン(AIが処理する文字の単位)だけじゃなく、コンピュータ・ネットワーク・ファイルシステム(データを保存・整理する仕組み)も要る。
今はその構築の初期段階だ、という主張でした。

マスクが意味するところは?

マスク氏の返信 「People have no idea(みんな分かってない)」 の一言の意味ですが、
実際の計画を踏まえて考えると筆者の読みは以下。
これから必要になる計算力、そしてそれを動かす電力やデータセンターの規模を、ほとんどの人は想像できてない。
そういう同意なのではと。

実際の計画はというと

  • 宇宙でソーラーパネルを広げて電気をつくる
  • データセンターごと宇宙に置いてしまう(土地は事実上いくらでもある)
    でも冷却はどうする?
  • それらを運ぶのがSpaceXの再利用ロケット

(ただし宇宙も無限に使えるわけではなく、後で書く衝突・宇宙ごみの問題があります)
そして、完全に地上をやめて宇宙へ行く話ではありませんでした。

地上の拡大と、軌道(宇宙)の構想が並んでる形です。
ここを混ぜると話を大きく見誤るので、これから分けて整理します。

全体像:地上計画と軌道計画は別のもの

地上計画軌道計画
何をするxAI(マスク氏のAI企業で、今はSpaceXの一部)のデータセンターを地上で拡大
メンフィスの「Colossus」など
太陽電池とラジエーター(放熱板)付きの計算衛星を大量に打ち上げる
規模の目安2027年までに約10GWを目指すという報道あり(公式資料では未確認)初期案で1機平均約120kW、FCCに最大100万機を申請
時期いま進行中早ければ2027〜2028年に展開開始(資料の時点で異なる)
制約電力の確保・許認可冷却の大規模化・打ち上げ量・チップ供給・デブリ(宇宙ごみ)

表の「GW」は電力の大きさの単位で、1GW=1,000MW(メガワット)=100万kWです。

地上計画:まずは地上でデータセンター拡大中

まず地上側です。

xAIは、米テネシー州メンフィスの「Colossus」などで地上のデータセンターを拡大してます。
SpaceXの目論見書では、メンフィスなどの施設を「ギガワット規模のAI学習クラスター」の一部と説明してます。
(多数の計算機をつないで、AIを学習させる設備のことです)

xAI(SpaceX)の主な地上拠点と発射場の地図。メンフィスとサウスヘイブンのAIデータセンター、バストロップの衛星工場、テキサス州スターベースとフロリダ州のStarship発射場
xAI(SpaceX)の主な地上拠点と発射場(筆者作成)。
拠点はSpaceXの目論見書・米証券取引委員会(SEC)への提出資料、発射場の回数は米連邦航空局(FAA)と米空軍省の決定にある年間の枠。
州境は米国勢調査局のデータ。
点は市・発射場のおおよその位置で、フロリダの2つの発射場はまとめて表示

規模の目標については、報道が2つあります。

ただ、会社の公式資料で同じ数字は確認できてません。
なので、ここでは「GW級の拡大を進めてる」くらいに受け取っておきます。

そのうえでマスク氏は、2026年8月のXへの投稿でこう書いたと報じられてます。
「電力の確保と土地での許認可の問題で、おそらく2029年ごろには、軌道上の計算がAIを伸ばす唯一の道になる」
(という趣旨)

ポイントは、「2029年に地上のデータセンターが要らなくなる」とは言ってないことです。

筆者は、地上で先にギガワット級を作って、その先の桁(さらに増やす分)を軌道に任せる、という順番の話として読みました。
ここは筆者の解釈です。

ちなみにSpaceXは2026年2月にxAIを買収してます。
ロケット・衛星の会社と、AIの会社がひとつになってるわけですね。

軌道計画:Starmindと衛星「AI1」

軌道側の計画は「Starmind(スターマインド)」と呼ばれてて、最初の衛星は「AI1」です。

2026年6月8日に、マスク氏らが初期案を紹介してます。
SpaceXが米証券取引委員会(SEC)に提出した説明会の記録によると、目安はこんな感じ。

項目2026年6月の初期案
形計算コア(チップを載せた部分)の両側に、大型の太陽電池とラジエーター
計算機部分の電力平均(持続)約120kW、ピーク約150kW
大きさ翼幅約70m
ラジエーター両面から放熱する板で、1m²あたり約1,400Wの熱を捨てる想定
軌道高度およそ600〜800km
光が届く時間約2〜3ミリ秒(真上の衛星までの距離を高度とみなし、光の速さで割った概算で、通信全体の遅延とは別)

翼幅約70mは、ジャンボ機(ボーイング747-8の全幅 約68m)とほぼ同じです。
学校の25mプールなら3つ分弱、国際宇宙ステーション(端から端まで約109m)の3分の2くらい。

これは初期案の1機の大きさです。
申請の上限は100万機ですが、仕様は複数になる計画です。

衛星AI1の翼幅約70mを、ジャンボ機・25mプール・ISSと同じ縮尺で比べた図
同じ縮尺で比べたAI1の翼幅(筆者作成・絵は形を簡略化)


なお、8月の発表を伝える報道では、仕様が平均約175kW・ピーク約250kW・翼幅約75mに更新されてます。
仕様はまだ変わってる途中なので、この記事では6月の初期案の数字で計算します。

ほかの計画はこんな感じです。

時期は、資料の時点で前後してます。

  • 6月の説明では、CFO(最高財務責任者)が「早ければ来年(2027年)に、計算衛星の構成要素を飛ばして能力を実証できる」「計画どおりなら2028年に飛ばし始める」と話してます
  • 6月の目論見書でも、展開の開始は早ければ2028年
  • 一方、8月の発表を伝える報道では早ければ2027年に初期展開

FCCってなに?なんでFCCに申請するの?

FCC(米連邦通信委員会)は、アメリカで衛星通信などの電波の利用を規制・許可する機関です。
ロケットの打ち上げ許可そのものとは、役割が別です。

今回の衛星同士は、主にレーザー(光)でつながる計画です。
ただ、予備の通信に「Ka帯」という周波数帯の電波を使うので、FCCに申請してます(申請書)。
申請書では、使い終わった衛星の片付け方(デブリ対策)のルールにも沿う、と書いてます。

100万機をほんとに打ち上げるつもり?

申請してるのは「最大100万機まで」。
つまり上限で、100万機すべてを打ち上げることが決まったわけではありません。

FCCのルールでは、この種の衛星群(地球の周りを回る非静止衛星)の許可を受けたら通常、6年以内に半数、9年以内に残り全部を打ち上げて、決められた軌道で運用する必要があります。
SpaceXは、この期限の義務を免除してほしいと申請してます(FCCの公示)。

まだ申請の段階なので、いつまでに何機になるかは、この申請だけでは決まってません。

100万機ぜんぶ同じスペック?

違います。
申請書には、軌道ごとに違うバージョンの衛星を設計・運用すると書いてあります。

リンク先の申請書には、1機ごとの電力や重さの数字は見当たりません。
この記事で使ってる性能は、6月の初期案(平均約120kW)と、8月の更新版を伝える報道(平均約175kW)です。

なので、冒頭の「120GW」はあくまで仮定の単純計算です。
初期案の平均120kW×100万機=120GW。

ただしこれは、「申請した上限の数」に「初期案の電力」を掛けただけの筆者の計算です。
会社の計画値ではないし、実際にそれだけ打ち上がるという意味でもありません。

なぜ電力を宇宙で取るのか

本人・会社の主張

マスク氏と会社の説明を整理すると、理由は大きく3つです。

1. 宇宙は日照が長い

本人いわく「It’s always sunny in space(宇宙はいつも晴れ)」。

正確には、宇宙にも地球の影に入る時間はあります。
ただ、大気や天候の影響はありません。

FCCへの申請書では、高い高度の太陽同期軌道なら、日が当たる時間の割合が99%を超えることもあると説明してます。
だから蓄電池に頼る必要が減る、という理屈です。
(太陽同期軌道=同じ場所の上空を、毎回ほぼ同じ地方時刻に通る軌道)

2. 地上はつなぐまでが遅い

地上では、電力の確保・送電網・許認可がボトルネック(全体の速さを決めてしまう、いちばん細いところ)になってる、というのが会社側の見方です。
CFOも6月の説明で、データセンターへの地元の反発や、電気代、土地・規制のハードルが年々厳しくなってると話してます(SEC資料)。

3. 打ち上げが安くなれば逆転する

Starship(SpaceXの大型再利用ロケット)で打ち上げ単価が十分に下がれば、衛星を量産して打ち上げる方が安くなる。
地上で電力と土地と許可を取るより、という計算です。
FCCへの申請書でも、完全再利用ロケットで打ち上げ費用が下がれば、控えめに見積もっても宇宙の方が地上より有利だ、と書いてます。

規模感もかなり大きいです。

本人は2025年11月のXへの投稿で、「Starshipで年間300GW、場合によっては500GW分の太陽光AI衛星を軌道に送れるはず」と書いたと報じられてます。
ここでの「年300GW」は、毎年それだけの電力規模の衛星を新しく足していく、という意味です。

同じ投稿では、米国の平均電力消費(約500GW)と比べてます。
そして、ボトルネックは打ち上げよりもチップの量産で、Teslaの「Terafab」(大規模な半導体工場の構想)が必要だ、という整理もしてます(2025年11月時点の発言)。

(米国の電力消費は、EIAの2025年の年間消費量を時間で割ると約480GW。
「約500GW」は大づかみな丸めです)

ここは分けて読みたい

「年300GW」は本人の将来の見通しで、実績ではありません。

たとえばAI1の初期案(平均120kW)のまま300GW分を作るとすると、年に約250万機。
これは筆者の単純計算で、申請した最大100万機とは別に、仮の条件で割っただけの数字です。

実際の衛星の仕様・製造量・打ち上げ量とどう合うのかは、今回の資料では確認できてません。

冷却:本人・会社の主張と残る疑問

自分の仮説で、いちばん引っかかったのがここでした。

宇宙ではどう冷やすのか

地上のデータセンターは、空気や水に熱を移して運び出します(対流)。
でも宇宙は真空なので、空気で冷やすことができません。

そこで使うのが放射冷却です。
大きな板(ラジエーター)を広げて、熱を赤外線として宇宙空間に放つ。

チップ(GPU=並列計算が得意で、AIの計算に使われる半導体など)で使った電力は、ほぼすべて最終的に熱になります。
なので、使う電力が大きいほど広いラジエーターが要ります。

本人・会社の主張

  • 初期案では、両面から放熱するラジエーターで1m²あたり約1,400Wの熱を捨てる想定
  • CFOは6月の説明で「Starlink(SpaceXの衛星通信網)でやってる放射冷却の延長」だと話してる(SEC資料)
  • FCCへの申請書でも、水を大量に使う地上の冷却と比べて、真空への放射冷却を利点に挙げてる
  • マスク氏も2026年9月ごろ、冷却を理由に無理だとする意見に「ラジエーターの面積あたりの排熱量や、GPUの上限温度といった基本の数字を分かってるのか」という趣旨で反論したと報じられてる

1m²あたり1,400Wの放熱って、どの程度?

家庭用の電子レンジの加熱出力は、500〜600Wが一般的。

加熱出力に換算すると、1,400Wは1m²の板から、電子レンジ2〜3台分の熱を出し続けるイメージになります。
衛星1機(120kW)だと、電子レンジ200〜240台分(加熱出力換算)の熱を、宇宙に捨て続けることになります。

残る疑問

小さい規模での実績はあります。
Starlinkの衛星もそうですし、国際宇宙ステーション(ISS)も大きなラジエーターで熱を捨ててます。

問題は、それをギガワット級に広げたときの構造の大きさ・重さ・壊れやすさです。
IEEE Spectrumに載った分析でも、放熱面積と重さが大きな制約として挙げられてます。
冷却で筆者が気になってるのもここです。

1,400W/m²という想定で、筆者が単純計算してみました。
(必要な面積=捨てる熱÷1,400W/m²。
1,400Wは、両面から放熱する板の「板1m²あたり」の値として計算)

捨てる熱板の面積(両面放熱・1,400W/m²)
衛星1機・平均120kW約86m²
衛星1機・ピーク150kW約107m²
1GW分約0.71km²(一辺約850mの正方形)
年300GW分毎年 約214km²(たくさんの衛星の合計)

※計算機の電力がそのまま熱になると仮定した概算です。
ほかの機器の発熱、太陽や地球から受ける熱、設計の余裕は入れてません。

1機あたり86〜107m²なら、衛星の部品として想像できる大きさです。

86〜107m²は、不動産広告の換算(1畳=1.62m²)でいうと約53〜66畳、坪でいうと約26〜32坪。
都内のファミリー向けマンションなら、広めの3LDK〜4LDKが1戸まるごと、くらいのイメージです(筆者の感覚)。
それくらいの板が、衛星1機ごとに付いてる計算です。

でも年300GW分となると、毎年200km²以上のラジエーターを、たくさんの衛星に分けて宇宙に広げ続ける計算になります。

しかも1,400W/m²は初期案の「想定」です。
今回確認した資料の範囲では、AI1としての軌道での実証結果はまだ出てません。

打ち上げコスト:本人・会社の主張と残る疑問

本人・会社の主張

運ぶのはStarshipです。
ロケットを使い捨てにせず再利用して、軌道まで運ぶ単価を下げる。
その単価が十分に下がることが、この構想の経済性の前提になってます。

CFOは6月の説明で、こんな見通しを話してます(SEC資料)。
Starshipの第2段をタワーに戻して回収し、短い間隔で繰り返し再利用できるようになれば、宇宙へ運ぶ重さあたりの費用はFalcon(いまの主力ロケット)の今の水準から約10分の1になる。

あくまで条件付きの会社の見通しで、実績として確認されたコストではありません。

FCCへの申請書には、こんな例も書かれてます。
「1トンあたり100kWの衛星を年100万トン打ち上げれば、年100GWずつ計算能力を足せる」

残る疑問

前提が「打ち上げ単価が下がること」なので、そこが計画どおりに進むかが、そのまま構想の成否になります。
実際にいくらで運べるのかは、今回確認した資料の範囲では、まだ実績の数字が出てません。

量の面でも、申請書の例(1トンあたり100kW)を使って単純計算してみます。

  • 1GW分=約1万トン
  • 本人の見通しの年300GW分=年約300万トン

(どちらも、申請書の例の比率をそのまま当てはめた筆者の単純計算です)

これを運ぶには、Starshipを相当な頻度で打ち上げ続ける必要があります。
打ち上げの頻度がどこまで上がるかは、まだ答えが出てない論点です。
(発射場ごとの回数の枠と比べた話は、次の章に書いてます)

打ち上げ回数の壁:初期案で計約2万4,000回、発射場の年間の枠は約145回

ここが、筆者がいちばん問題だと思ってるところです。
100万機をすべて6月の初期案で運ぶとしたときの筆者の試算と、3つの発射場の許可・環境審査の資料に書かれた年間の回数を比べます。

100万機を上げるには、打ち上げ約2万4,000回

会社自身の見通しがあります。

CFOは6月の説明で、初代の衛星と新型Starship(V3)の組み合わせだと「打ち上げ1回で約5MW、1GWあたり約200回」と話してます。
(MW=メガワット、1,000kW)
「これは第1世代の衛星とロケットの数字」とも断ってて、改良で減らしていく前提です。

ここでの「5MW」は、打ち上げ1回で運べる衛星の、計算機が使う電力の合計のことです。
電気をつくる量でも、打ち上げに使うエネルギーでもなく、「計算能力の規模」を電力の大きさで表してます。
5MWを、衛星1機の計算機の平均約120kWと同じ基準だと仮定すると、5MW÷120kW=1回あたり約40機の計算です。

「1GWあたり約200回」は、計算機の電力にして1GW分(衛星約8,300機分)を軌道に上げるのに、打ち上げが約200回要る、という意味です。

そして「120GW」は、120kW(衛星1機)×100万機で、100万機がそれぞれ平均120kWで動くと仮定したときの、計算機の電力の合計です。
電力量(kWh=使った電気の総量)ではなく電力の大きさで、電気は衛星自身の太陽電池でまかなう計画です。
米国の平均電力消費(約480GW)の約4分の1にあたります。

同じ仮定で「1GWあたり約200回」に当てはめると、120GW×200回/GW=約2万4,000回(筆者の計算)。

Starshipの発射場の枠は、3か所で年約145回

じゃあ、この2万4,000回はどれくらい大変なのか。
Starshipの発射場ごとに、年に打ち上げられる回数の枠(許可や環境審査の資料に書かれた数)を調べてみました。

発射場状況年間の回数の枠
スターベース(テキサス州)いまStarshipが実際に飛んでる唯一の場所。
2025年5月にFAAが5回→25回に
25回
ケネディ宇宙センター LC-39A(フロリダ州)2026年1月にFAAが環境審査を承認(実際の運用には、別にFAAのライセンスが必要)44回
ケープカナベラル SLC-37(フロリダ州)2025年11月に米空軍省が決定、建設中。
FAAによる空域の追加審査が終わることが条件
76回

(FAA=米連邦航空局。
ロケットの打ち上げを許可するアメリカの役所です)

3か所の枠を単純に足すと、年に約145回。
(まだ審査が終わってないSLC-37も含めた数で、いま全部が打ち上げ許可済みという意味ではありません)

この145回の枠が変わらず、毎年全部をこの衛星に使い、輸送能力も初期案のままだとすると、2万4,000回には約166年分かかる計算です(筆者の計算)。

年1GWのペースを通年で続けるには

もっと近い目標で見ても、余裕はありません。
マスク氏は6月の説明で、軌道上のAI計算を「来年末(2027年末)までに年1GWのペースに」したいと話してます(SEC資料)。
本人は「約束ではない」とも言ってます。

このペースを1年通して続けるとすると、初期案の輸送能力(1GWあたり約200回)では年約200回。
上の3か所の枠を足した145回を上回ります。

もちろん、この枠は各資料に書かれた数で、実際に飛ぶ回数ではありません。
SpaceXは発射台を増やしていく計画ですし、改良で1回あたりに運べる量も増やす前提です。

筆者の見立て:打ち上げ回数がボトルネック

それでも、打ち上げ回数の枠は、ほぼ確実にボトルネックになる、というのが筆者の見立てです。
少なくとも今わかってる枠と初期案の輸送能力のままでは、年1GWのペースを通年で続けるだけでも枠を超えます。
宇宙データセンターがどこまで早く増えるかは、「年に何回飛ばせるか」に大きく左右されると思ってます。

ちなみにマスク氏は同じ6月に、打ち上げ能力を3年ほどで年約100万トンまで増やしたいと話してます。

地球と宇宙への影響:熱・日当たり・衝突・夜空・オゾン層

100万機も宇宙に並べたら、地球や宇宙にどんな影響があるのか。
素朴に気になったので、ざっくり計算と、専門家から出てる心配をまとめました。

100万機分の熱で、地球が暖まったりしない?

6月の初期案を100万機に当てはめて、ざっくり計算してみました。
地球全体のエネルギーの収支と比べると、小さい計算でした。

  • 衛星1機の太陽電池は約600m²(150kW÷1m²あたり250W、SEC資料の想定)
  • 宇宙の日光は1m²あたり約1,360W(NASAの値の約340W/m²は、この4分の1を地球全体にならした値)
  • パネルに当たる日光を全部吸収して、電気にした分も最後は熱になると仮定すると、1機で最大約80万W、100万機で最大約0.8兆W(計算機の120kWはこの中に含まれます)

比べる相手はこの2つです。

  • 地球が吸収してる太陽のエネルギー:平均で1m²あたり約240W。
    地球全体だと約12京Wで、0.8兆Wの約15万倍
  • 温暖化の原因になってる「地球のエネルギー収支のずれ」:地球が太陽から吸収するエネルギーと、宇宙へ逃がすエネルギーの差のことです。
    2006〜2018年平均で1m²あたり約0.8W、地球全体だと約400兆W。
    この差の分だけ地球に熱がたまり続けてて、それが温暖化です。
    衛星の熱(最大約0.8兆W)は、この約400兆Wの0.2%程度

(地球は半径約6,370kmの球として、表面積・断面積を計算。
0.2%はエネルギー量の比で、気温の比ではありません)

この0.8兆Wは、太陽電池パネルに当たる日光だけを対象に、それが全部熱になって地球に向かうと仮定した値です。
実際には、日の当たり方は軌道や衛星の向きで変わり、熱も四方八方に出ていくので、地球に届くのはその一部です。
一方で、衛星本体や放熱板が受ける日光、地球から受ける赤外線などは計算に入れてません。

なので、「気候への影響はゼロ」とまでは言えません。
ただ、地球全体の熱の出入りに比べると桁違いに小さい、というのが筆者の概算です。

100万機のパネルで、地上の日当たりが減らない?

同じ仮定で計算すると、パネルの合計は約600km²(100万機×約600m²)。
地球が太陽の光を受ける面(断面)は約1億2,800万km²なので、約20万分の1です。

しかもこれは、全部のパネルが太陽と地球の間にきれいに並んだと仮定した場合です。
地球全体で見た日光の減り方としては、小さい計算でした。
(ある場所の上を衛星が通るときの、その瞬間・その場所の影までは計算してません)

そもそも100万機も、常に軌道にいられるの?

ここは、熱や日当たりよりずっと大きな論点です。

2026年2月時点で、軌道で動いてる衛星は全部で約1万4,000機(そのうちStarlinkが約9,300〜9,600機)と報じられてます。
100万機は、その約70倍です。

宇宙の専門家マクダウェル氏は、同じ記事で「数が100倍になれば、衛星どうしの接近は、きちんと位置を保たなければ1万倍になる」と指摘してます。

SpaceX側は申請書で、こう説明してます。

  • 高度500〜2,000kmの間に、幅50km以内の「殻」に分けて並べる
  • 自動の衝突回避と、推進装置で位置を保つ
  • 使い終わった衛星は、大気圏に落として燃やすか、地球から離れた軌道や太陽を回る軌道に移す

夜空と、燃え尽きる衛星の影響

衝突のほかにも、こんな心配が出てます。

  • 夜空が明るくなる:天文学者からは、年の多くの時期に、地球の多くの場所で一晩中見えるだろうという声(正確な明るさを計算するには、まだ技術的な情報が足りないとも)
  • 燃え尽きる衛星のアルミ:大気圏で燃えた衛星から出る酸化アルミが、オゾン層を壊す反応を助けるおそれがある、という研究。
    質量の30%がアルミの250kgの衛星なら、酸化アルミ約30kgという推定です(シミュレーションによる値で、衛星1機の再突入で実際に測った値ではありません)

なので、「熱で地球が暖まる」より、「ぶつからずに運用できるか」「夜空とオゾン層への影響」の方が、本当の論点だと思ってます。

数字の性質:計画・報道・筆者の試算を分ける

最後に、この記事に出てきた数字の性質を整理しておきます。

  • 衛星の仕様(120kWなど)、100万機、年300GW、2027〜2028年の実証・展開、2029年 → 本人の発言・会社の説明・報道ベースの計画や見通し
  • 地上の約10GW → 報道ベースの目標
  • 120GW・86m²・250万機など → それを当てはめた筆者の単純計算
  • 約2万4,000回・約166年分 → 初期案を当てはめた筆者の試算
  • 発射場の年約145回 → 手続きの段階が違う数字(許可済み・環境審査・追加審査待ち)の単純合計

どれも確定した実績ではありません。

投資家としてどう読むか

ここからは筆者の見立てです。

IREN Bullさんのポストは、「業界の内側は分かってる」という投資家側の受け取り方です。
マスク氏が$IRENについて何か言ったわけではありません。

ただ、SpaceX自身が地上のデータセンターを拡大しながら、軌道の構想を進めてる。
これは、地上のAIデータセンターを持つ会社を見るうえで押さえておきたい点だと思ってます。

筆者の読みでは、宇宙の計画は地上の「その先の桁」の話。
少なくとも今の説明を読む限り、地上のデータセンターを捨てる話ではありませんでした。

一方で、マスク氏は「2029年ごろには軌道上の計算がAIを伸ばす唯一の道になる」と書いたと報じられてます。
筆者はこれを「伸ばす分は軌道へ」と読みました。

もしその方向に本当に進むなら、地上で電力と土地を押さえてる会社の価値の測り方も、いずれ変わってくるかもしれません。
ここからは筆者の仮説です。

今のIRENのような会社は、「すぐ使える電力を、どれだけ押さえてるか」で評価されてる面があると思ってます。
AI需要が伸びるほど、押さえた電力の価値も上がる、という見方です。

でも数年たって、世界中で必要なAI向けの電力が、地上で用意できる量を大きく超えたらどうなるか。
地上の会社が押さえられる電力には限りがあるので、伸びしろの部分は、宇宙に展開できるSpaceXのような会社に持っていかれるかもしれません。

そうなると地上の会社は、「どこまで伸びるか」より、「押さえた電力を使った計算サービスを、どれだけ長く・高く・確かな相手と契約できてるか」(契約の期間・単価・顧客)の比重が増すかもしれません。
今も大事な見方ですが、成長株というより、設備で稼ぐインフラ企業に近い見られ方になる、というイメージです。

逆のシナリオもあります。
宇宙の計画が遅れたり、思ったより高くついたりすれば、地上の「今すぐ使える電力」の希少価値は、むしろ長く続く可能性があります。

どっちに転ぶかは、このあたりで見えてくると思ってます。

  • 宇宙のコストが本当に地上を下回るか(会社側は申請書で「数年のうちに、AIの計算を一番安くつくれる場所は宇宙になる」と主張)
  • 地上の会社が、長期契約(期間・単価・顧客)をどこまで積み上げられるか
  • 地上の電力・許認可の詰まりが、どこまで続くか

ここは確証のない話です。
計画の進み具合(早ければ2027〜2028年とされる実証・展開、冷却の実証、Starshipの打ち上げ頻度と単価)を見ながら考えたいと思います。

筆者は$IRENを保有してます。
この記事は、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。

まとめ

  • SpaceXは地上の拡大と軌道の構想を並行して進めてる。
    筆者は「地上で先にGW級、その先の桁を軌道へ」という二段構えと整理した
  • 軌道の衛星AI1は2026年6月の初期案で平均約120kW、FCCに最大100万機を申請、展開開始は早ければ2027〜2028年(資料の時点で異なる)
  • 電力を宇宙で取る理由は「日照が長い」「地上は電力と許認可が遅い」「打ち上げが安くなれば逆転」
  • 冷却は放射冷却。
    会社はStarlinkの延長だと説明するけど、GW級に広げたときの大きさ・重さ・壊れやすさが大きな疑問
  • 打ち上げはStarshipの再利用で単価が下がることが前提。
    頻度と単価はまだ答えが出てない
  • 打ち上げ回数の枠:100万機を全部初期案で上げるなら約2万4,000回(筆者の試算)。
    Starshipの発射場の枠は3か所合わせて年約145回(審査中を含む)で、筆者はここがいちばんのボトルネックと見てる
  • 初期案のパネル面積から求めた熱や影は、地球全体と比べると小さい計算。
    筆者は衝突・夜空・オゾン層への影響の方を気にしてる
  • 衛星の仕様・時期・規模は計画で、確定した実績ではない

宇宙の構想がどこまで現実になるか。
早ければ2027〜2028年とされる実証・展開と、その後の冷却・打ち上げの実績で、少しずつ見えてくるはずです。
動きがあれば追記します。

※この記事は、2026年10月10日時点で公開されてる発言・報道・提出資料をもとにまとめたものです。
計画の数字は今後変わる可能性があります。
投資判断はご自身の責任でお願いします。

Liquid_snake この記事を書いた人

東京工業大学(現・Institute of Science Tokyo)大学院 機械系 修士課程修了、修士(工学)。バイク・株・PC・ガジェット・旅行について、自分で試したこと・調べたことだけを書いています。愛車は刀とDR650SE。2013年から16カ国を訪問。株は調べ尽くしたうえで、最後は直感で買います。

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