ベインはキオクシアでいくら儲けた?自己資金2,120億円、BCPE名義の株はベインだけのものではなかった【開示で検証】
PRこの記事にはアフィリエイト広告(Amazon)のリンクが含まれています。
結論:ベイン単独の利益は開示されていません。分かっているのは、①2017年の契約時にベインが出す予定だった自己資金は2,120億円(買収資金2兆円のうち。東芝の開示)、②ベイン系4社(BCPE Pangea)名義の株は上場前に2億9,100万株(議決権56%)あったが、そのうち7,740万株はSK hynixが転換社債を持つ器の株だったこと、の2点です。
【2026年9月追記】東芝の開示、有価証券届出書・有価証券報告書・半期報告書、国税庁の資料と照合し、内容を修正しました。BCPE名義の株はベインだけのものではないため、初稿の「18兆円以上」という試算は取り下げています。日本での課税についての説明も、断定を改めました(修正箇所は末尾に記載)。
前回・前々回とキオクシアのSOについて書いたが、そもそも「ベイン・キャピタルはこの投資でいくら儲けているのか」が気になったので整理してみた。数字は東芝の開示と、キオクシアの有価証券報告書・有価証券届出書(いずれもEDINETで閲覧可能)から確認したものを使ってます。
【ベインの売却について(2026年9月時点)】ベインのDavid Gross氏は2026年7月8日のブルームバーグのインタビューで「もうキオクシアの持ち分はない」と話しました。一方、キオクシアの2026年8月10日の開示では、BCPE Pangea Cayman2(SK hynixが転換社債を持つ器)名義の7,740万株は8月3日時点でも残っており、東芝を抜いて筆頭株主になっています。
ベインの売却の経過と、報道されたリターンについては続報記事で整理しています↓
ベインによる買収:2018年6月
2018年6月、ベイン・キャピタルを中心とするコンソーシアムが東芝から「東芝メモリ株式会社」(現キオクシア株式会社)の全株式を取得した。譲渡価格は東芝の開示で約2兆円(実行時は約2兆3億円)。
ただしこれはコンソーシアム全体の支払額であり、ベイン単独の出資額ではない。2017年の契約時点で予定されていた資金の出し手は以下のとおり(東芝の開示):
- ベイン・キャピタル(リード):2,120億円
- 東芝:3,505億円を再出資して議決権約40%
- SK hynix:3,950億円。ベインが作る会社への融資で、株式に転換する権利つき(議決権は15%まで)
- Apple・Seagate・Kingston・Dell Technologies Capital:計4,155億円(普通株・議決権は持たない)
- HOYA:270億円(議決権約10%)
- 金融機関からの借入:6,000億円
また買収にはLBO(レバレッジドバイアウト)構造が使われており、買収金額の一部は借入金でまかなわれている。ベインの自己資金は、契約時点の予定額で2,120億円。出資・融資を合わせた1兆4,000億円の約15%にあたる。実行後の最終額や、その後の持分の動きは開示されていない。
一般的なLBOでは買収額の一部を借入でまかなうが、その比率は案件・市場環境・借り手の信用力によって大きく異なる。
一方で、ベインが得た利益を外から計算するのは難しい(理由は後述)。
LBOとは
LBO(Leveraged BuyOut)はPEファンドが企業買収に使う典型的な手法。
仕組みは単純で、自己資金に加えて借入金を使って買収し、買収した会社のキャッシュフローで借金を返しながら、最終的に上場または売却で回収する。少ない自己資本で大きな会社を買えるため、うまくいけば投資リターンが何倍にもなる。
キオクシアの場合:
- 2018年:約2兆円で買収(うち6,000億円が借入の予定)
- 買収後:コスト削減・事業再建・半導体需要の波に乗る
- 2024年12月:東証プライムに上場(IPO)→ 一部株式を売却して回収開始
上場直前のベイン系4社(BCPE名義)の持ち株
有価証券届出書(2024年11月8日提出)から、上場直前のベイン系4社の持ち株が確認できる。
| エンティティ | 議決権比率 | 株数 |
|---|---|---|
| BCPE Pangea Cayman, L.P. | 25.92% | 134,112,000株 |
| BCPE Pangea Cayman2, Ltd. | 14.96% | 77,400,000株 |
| BCPE Pangea Cayman 1A, L.P. | 9.37% | 48,489,780株 |
| BCPE Pangea Cayman 1B, L.P. | 5.99% | 30,998,220株 |
| 4社合計 | 56.23% | 291,000,000株 |
このうちBCPE Pangea Cayman2(7,740万株)には、SK hynixが同社の株に転換できる社債を持っている(有価証券届出書)。BCPE名義=ベインのファンドの持ち分、ではない。残り3社の中で、ベインのファンドと共同投資家がどういう割合で持っているかも開示されていない。
その後の保有株数の推移
有価証券届出書・半期報告書・有価証券報告書の大株主の表と、大量保有の変更報告書、キオクシアの適時開示から確認。
| 時点(資料) | 4社合計 | うちCayman2 |
|---|---|---|
| 上場直前(有価証券届出書) | 2億9,100万株(議決権56.23%) | 7,740万株 |
| 2025年3月末(第7期有報) | 2億7,564万株(51.11%) | 7,740万株 |
| 2025年9月末(半期報告書) | 2億7,564万株(51.06%) | 7,740万株 |
| 2026年3月18日(変更報告書) | 1億4,943万株(27.42%) | 7,740万株 |
| 2026年6月11日(変更報告書) | 7,740万株(14.17%) | 7,740万株(Cayman2のみ) |
| 2026年8月3日(適時開示) | — | 7,740万株(14.19%・筆頭株主) |
有価証券報告書の大株主の表は株主名簿ベースで、証券会社に貸し出した株は含まれないため、変更報告書の保有数より少なく出ることがある(第8期有報の2026年3月末では4社合計1億1,943万株・21.87%)。
上場時に減ったのはCayman, L.P.の約1,536万株だけ。本格的な売却は2025年11月に始まり、2026年6月11日までにCayman, L.P.・1A・1Bの3社は全株を売却した(変更報告書。売却の中身は続報記事で整理)。Cayman2の7,740万株は2026年8月まで一度も減っていない。
ここで気になる点 Cayman という文字。
んん、ケイマンといえばケイマン諸島?タックスヘイブン?? ええんかいなこれと
ケイマン諸島には法人税もキャピタルゲイン税もなく、器(SPC=特別目的会社)の段階で税がかからないため、多くのPEファンドが投資の受け皿に使っている。
違法ではない。ただ、それで結局どこでどれだけ税金が払われたのかが外から見えにくいのは、なんだかなぁ、とは思う。
ケイマン経由だと、税金はどうなるのか
仕組み
前述のとおり、ケイマンのSPC自体には税がかからない。
ただし「ケイマンを使わなければ売却益の20%が米国で課税された」とは言えない。米国ではパートナーシップ(PEファンドの一般的な形)はそれ自体は所得税を払わず、利益は投資家に配分されて各自が課税される(米国内国歳入庁)。20%は個人の長期譲渡益の最高税率で、投資家が法人なのか、非課税の団体なのかなどで扱いは変わる。
日本は課税できないのか
国内法には、大株主の売却に課税する規定がある。日本に拠点(恒久的施設)のない外国法人が日本株を売っても原則は課税されないが、「事業譲渡類似株式」の譲渡は例外として課税対象になる(国税庁)。目安は次の2つ。
- 売った年度の末日までの3年間のどこかで、グループで発行済株式の25%以上を持っていた
- その年度に5%以上を売った
外国の組合(ケイマンのL.P.など)を通じた保有も、この判定に含まれる(法人税法施行令178条)。BCPE名義の4社は上場前に議決権の56%を持ち、2025年11月〜2026年3月だけで発行済株式の2割超(約1億2,621万株)を売却しているので、数字だけ見れば目安は大きく超えている。
ただ、4社をひとまとめに判定するのか、ファンド投資家の国と日本の租税条約で日本の課税が制限されるのか、そして実際にいくら納税したのかは開示されておらず、外からは分からない。
なお、日本とケイマンの間には、脱税防止のための情報交換を中心とする租税協定が2011年に発効している(外務省)。二重課税を調整する包括的な租税条約はないが、条約がなければ日本の国内法がそのまま適用されるので、「条約がないから日本は課税できない」わけではない。
国際的な動き:グローバル・ミニマム課税
OECDとG20が主導するグローバルミニマム税(Pillar Two、最低税率15%)は国際的な低課税への対策で、日本も2024年4月以後に始まる事業年度から適用している。
ただ、対象は年間総収入7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループで、軽課税国の子会社の税負担を15%まで親会社側で上乗せ課税する仕組み。ファンドが日本株を売った利益に日本が課税するための制度ではない(国税庁)。
- 最終親会社である投資会社等は、対象から除外される
- 各国の実施状況にばらつきがある
国際的な租税回避への規制は強化方向にある。ただ、ベインの件で日本の税がどれだけかかったのかが外から分からないこと自体は、個人的にはもやっとする。
ベインはいくら儲けたのか:分かること・分からないこと
ベイン単独の投資額・売却額・利益は開示されていない。開示で分かることと分からないことを分けると、こうなる。
| 分かること | 出典 |
|---|---|
| ベインの自己資金は契約時点の予定で2,120億円 | 東芝の開示(2017年) |
| BCPE名義の株数の推移(上場直前2億9,100万株→2026年6月11日7,740万株=Cayman2のみ) | 有価証券届出書・変更報告書 |
| Cayman, L.P.・1A・1Bの3社の売却額は、単価が開示された分だけで約5兆768億円(ベイン以外の投資家の持分を含みうる) | 変更報告書 |
| そのうちCayman2の7,740万株はSK hynixが転換社債を持つ器の株で、2026年8月3日時点でも残っている | 有価証券届出書・適時開示 |
| 2025年4月〜2026年3月の株価は1,510円〜24,420円 | 第8期有報 |
| 分からないこと |
|---|
| BCPE名義の各社の中で、ベインのファンドと共同投資家がどういう割合・条件で利益を分けるか |
| 3社の売却代金のうち、ベインのファンドの取り分がいくらか |
| 借入の返済、手数料、税金、ファンド投資家への分配 |
初稿の「18兆円以上」について:初稿では「BCPE名義の株数×2026年6月の株価」で18兆円以上と試算しましたが、①表を1行読み違えて株数が誤っていた、②2025年9月末の株数に2026年6月の株価を掛けており、その時点では大半をすでに売っていた、③BCPE名義にはSK hynixなどの持ち分が含まれ、ベイン単独の利益ではない、の3点で成り立たないため取り下げます。報道されたリターンについては続報記事で整理しています。
これはよくある手法なのか
「LBOで買収して上場させて稼ぐ」はPEファンドの最も典型的な投資手法らしい。日本でも過去に多数の事例がある。
ただしキオクシアのケースが特殊なのは以下点:
- 規模が大きい:2兆円(約180億ドル)規模は、LBOとしても大型案件
- タイミングの妙:NAND需要がAI・データセンター投資で急拡大した時期とIPOが重なった
- 株価の急騰:IPO価格1,455円 → 2026年6月時点で約96,000円(約66倍)という異例の値上がり
IPO後も株価がここまで上がったのは、ベイン自身も予想していなかったのでは(笑)
半導体サイクルとAIブームの波に乗れたことが結果的に最大の利益要因になったとみられる。
まとめ
- ベインを軸とする連合が2018年に東芝メモリを約2兆円で買収。ベインの自己資金は契約時点で2,120億円(東芝の開示)
- 上場直前、ベイン系4社(BCPE名義)が議決権の56%。うち7,740万株はSK hynixが転換社債を持つ器の株
- BCPE名義の株はベインだけのものではないため、ベイン単独の利益は開示からは計算できない(初稿の18兆円は取り下げ)
- 日本の税法には大株主の売却に課税する規定(事業譲渡類似株式)がある。実際に課税されたかは開示されていない
- LBO→上場はPEの定番戦略。キオクシアはIPO後の株価急騰もあり、PE投資として極めて好成績な部類に入る?
なお本記事は東芝の開示、有価証券届出書・有価証券報告書・半期報告書、国税庁の資料などの公開情報をもとにした情報整理であり、税務の判断や投資助言ではありません。
修正履歴
2026年9月:一次資料(東芝の開示、有価証券届出書・有価証券報告書・半期報告書、キオクシアの適時開示、大量保有の変更報告書、国税庁の質疑応答事例)と照合し、コンソーシアムの出資内訳、BCPE名義の保有株数の表、ベイン単独の利益の試算(18兆円を取り下げ)、日本での課税についての説明、2026年7月の追記を修正しました。
関連書籍
📚 半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防(クリス・ミラー著)|キオクシアを巡る半導体業界の地政学を平易に解説した世界的ベストセラー。業界の背景を深く知りたい方に。
📚 新装版 ハゲタカ(上)(真山仁著)|外資系PEファンドによる日本企業のLBO・再生を描いた傑作経済小説。ベインのキオクシア投資の背景を小説で体感できる。
