キオクシア社長のストックオプション行使タイミングと相続税戦略 アイキャッチ
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キオクシア社長のSO(ストックオプション)行使タイミングと日本の相続税戦略を深掘りしてみた

Xでキオクシア(285A)社長のストックオプション(SO)が話題になっていた。

「社長はSOで372,000株持っているから370億円の大資産家」というポストが数万いいねを集め、「なぜ行使しないのか?」という議論に発展していた。

自分もこれが気になってClaudeと深掘りしてみたので、整理してみる。

結論から言うと、スレッドには株価の誤り・人物の混在・SOの仕組みの誤解という3つの混乱があった。

ただ「370億クラスの権利がある」という結論自体は概ね正しい。

まず事実を整理する:3つの混乱

①根拠の株価に桁間違い

元のポストは「株価約10,000円」を前提にしていたが、これが誤り。キオクシアHD(285A)の株価は2026年6月時点で約97,000円前後で推移してる。1万円ではなく約10万円。

372,000株 × 10,000円 = 約37億円(元ポストの前提)
372,000株 × 97,000円 ≒ 約361億円(実際の計算)

「370億」という結論の数字はたまたま正しいが、根拠の株価が桁一つ違う。スレッド内部で矛盾。

②話してる人物が違う

372,000株のSOは早坂伸夫氏(前社長)の話。

一方、招集通知の「所有株式数 0株」は2026年4月に就任した太田裕雄氏(新社長)のもの。

スレッドは前社長のSOと新社長の保有株数を同一人物として混同して論じてた。

③「0株」と「SO 370億」は矛盾しない

招集通知の「所有する当社の株式数 0株」は、現に保有している発行済み株式の数。

SO(新株予約権)は行使するまで株式ではないため、もちろんここには計上されない。SOは有価証券報告書の「新株予約権等の状況」に別途開示されており、隠れているわけでも矛盾しているわけでもない。

「大量保有がバレるのを避けるために行使しない」という推測も流れていたが、これも成立しない。

372,600株は発行済み約5.3億株の約0.07%で、大量保有報告の閾値(5%)にはるかに届かない。そもそも隠すべき「大量保有」自体が存在しない。

ストックオプションの「行使」とは何か

よくSO行使という言葉をXでみて、お、また金持ちの話か と思っていたが、意味を全くわかっていなかったので調べたところ

SO(新株予約権)は「あらかじめ決めた価格(行使価額)で株を買う権利」であって、株そのものではない。

行使とは、その権利を使って実際に株式を取得する手続きのこと。だと。

具体的な流れ:
①会社に「行使します」と申し出る
②行使価額 × 株数を現金で払い込む
③会社が新株を発行(または自己株を交付)
④自分名義の本物の株式になる

行使前は権利を持つだけ。議決権も配当もなく、招集通知の「所有株式数」にも載らない。行使後、初めて本物の株主になる。

なぜ行使しないのか?経済合理的な理由

「行使しない=裏がある」ではなく、「今行使する経済的理由がない」というのが本質。

税制非適格SOの場合:行使した瞬間に巨額課税

税制非適格SOでは、行使した瞬間に「株式時価 − 行使価額」の差額が給与所得として課税される。売っていなくても、行使価額より高い株を手に入れた時点で「経済的利益を実現した」とみなされるため。

仮に行使価額1,455円・株価97,000円・372,600株で計算すると:
課税対象の差額 ≒ (97,000 − 1,455) × 372,600 ≒ 約356億円
行使時の税(給与所得・約55%) ≒ 約196億円

行使しても現金は一円も入っていないのに、196億円を現金で納める義務が生じる。

しかも行使後に株価が暴落しても、給与所得と譲渡損は損益通算できない。

これが「行使して保有し続ける」を誰もやらない理由。

📚 半導体戦争(クリス・ミラー著)|キオクシア株がここまで高騰した背景にある半導体業界の地政学を平易に解説した世界的ベストセラー。

インサイダー規制と窓の制約

役員は決算発表前など重要情報を持つ立場にあるため、売買できる窓(取引可能期間)が限られる。

また役員の売買は開示義務があり、社長が大量売却すれば市場への印象も悪い。退任後や分割売却がセオリーになる。

合理的な動き方:行使と売却を同時に

経営者の定石は「売る直前に、売る分だけ行使」し、売却代金で行使代金と税金を賄うこと。同日行使&売却なら200億円を事前に用意する必要はない。

区分税率試算手取り(全株売却時)
税制非適格SO行使時に給与所得約55%約160億円
税制適格SO売却時に譲渡所得20.315%約284億円

適格か非適格かで手取りが約120億円変わる。これが制度設計の重み。

📚 ビジネスエリートになるための教養としての投資(奥野一成著)|SOや株式投資を通じた資産形成に興味を持った方への入門書。長期投資の本質を分かりやすく解説。

なお適格SOには年間の権利行使価額に上限があるため、大量に一括行使すると超過分は非適格課税になる点も注意が必要。

米国の「Buy, Borrow, Die」との比較

マスクやベゾスが使うと言われる米国の節税戦略が「Buy, Borrow, Die」。

仕組みは以下:

  • Buy:値上がりする資産を持つ
  • Borrowその資産を担保に借入!借入は所得ではないので無課税。売らずに現金を得て、譲渡益課税を先送りする
  • Die(ここが核心)米国には「ステップアップ(basis step-up)」制度がある。相続人が引き継ぐ取得価額が、被相続人(亡くなられて遺産(財産や借金など)を残した方のこと)の死亡時の時価にリセットされる。つまり生前の含み益への所得課税が永久に消える (まじかよ、、)

「借りて生活し、死ぬまで売らなければ、値上がり益への所得課税がゼロになる」というのが戦略の完成形。

日本にはステップアップがない。日本では相続時に取得価額がそのまま引き継がれる(所得税法60条)。相続人が将来売れば含み益に対して譲渡益課税がかかる。さらに相続税(最高55%)が死亡時の時価ベースで別途乗ってくる。

日本で担保借入を使っても「先送り」にしかならず、米国版の「税金が消える」マジックは成立しない。

日本の相続税:株への実践的な対策

では日本で親が多額の株を持っていた場合、どうすれば相続税を抑えられるか。

以下①~⑤。

(前提として、上場株の相続税評価は「死亡日の時価ぴったり」ではなく、次の4つのうち最も低い額を使える:

  • 死亡日の終値
  • 死亡月の終値平均
  • 前月の終値平均
  • 前々月の終値平均

キオクシアのような乱高下株ならピーク時に亡くなっても安い月平均を使えるため、ここだけでも評価が下がる。)

①値上がり前に贈与する(相続時精算課税)

成長株に最も効く手法。相続時精算課税を選択すると、相続税の計算に使う評価額が贈与時の価格で固定される。安いうちに子へ贈与しておけば、その後10倍になっても相続税は安い時の値で計算される。2024年から年110万円の基礎控除(持ち戻し対象外)が追加され、使いやすくなった。ただし一度選択するとその親からの贈与は暦年課税に戻せない点に注意。値下がりしても高い評価で固定される逆リスクも。

②暦年贈与(7年ルールに注意)

年110万円まで非課税。2024年改正で持ち戻し期間が3年から7年に延長されたため、駆け込み贈与は封じられた。早く始めるほど有利。

ちなみに持ち戻し期間ってなによ↓

持ち戻し(生前贈与加算) とは、「亡くなる前の一定期間内にした贈与は、なかったことにして相続財産に戻して計算する」制度

具体例:

父が死亡する2年前に息子へ110万円を贈与。

改正前(3年ルール):死亡前3年以内の贈与は相続財産に加算 → この110万円も相続税の計算対象になる
改正後(7年ルール):死亡前7年以内に拡大 → より長い期間の贈与が引き戻される

要するに「贈与は早く始めるほど有利で、死の直前だと意味がなくなるよ」制度 涙

皆さん、贈与ある方はお早めに。

③生命保険の非課税枠

「500万円 × 法定相続人数」が非課税。

具体例:

父が死亡。法定相続人は母・子2人の計3人。

このとき父が生命保険(死亡保険金)に入っていれば:非課税枠 = 500万円 × 3人 = 1,500万円

保険金1,500万円を受け取っても、相続税がかからない!

株そのものは減らせないが、相続税を払う現金を確保する手段として重要。

相続人が悪いタイミングで株を売らずに済むよう、被相続人が生きているうちに計画的に現金を保険に変換しておいてもらう必要あり。

相続税は申告期限(10ヶ月)までに原則現金一括なので、乱高下株しか無い場合に悪いタイミングで売るリスクを防げる。

④取得費加算の特例

相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば、払った相続税の一部を取得費に加算でき、その後の譲渡益課税を圧縮できる。

相続税と譲渡益課税の二重負担を一部緩和する仕組み。

いまいちわからないと思うので具体例とともに

親が100万円で買った株が、相続時に1,000万円になっていたとする。

相続時:
1,000万円の時価で相続税がかかる(例:200万円払った)

その後売却時:
譲渡益 = 売値1,000万円 − 取得費100万円(親が買った価格)= 900万円
→ 900万円に20.315%の譲渡益課税がかかる

つまり同じ含み益900万円部分に相続税も譲渡益課税も両方かかるという二重取りの状態になる。

取得費加算の特例はこれを緩和する:

払った相続税の一部(この株に対応する分)を取得費に上乗せできる。

取得費 = 100万円(親の購入価格)+ 50万円(相続税のうちこの株の分)= 150万円

譲渡益 = 1,000万円 − 150万円 = 850万円

→ 課税対象が900万円→850万円に減る

⑤配偶者の税額軽減(ただし罠あり)

配偶者は1.6億円か法定相続分まで非課税。

一次相続では劇的に減るが、配偶者に寄せすぎると二次相続(その配偶者の死亡時)で爆発するのが典型的な失敗例とのこと。

一次・二次を通算で最適化する必要あり。

まとめ

Xのスレッドは混乱だらけだったが、調べてみると制度の仕組みがよく整理できました。

重要なポイントをまとめると:

  • SO行使前は「0株」で正常。権利と株式は別物
  • 行使しない理由は「裏がある」のではなく「今行使する経済的理由がない」から
  • 実務の定石は「売る直前に行使し、売却代金で行使代金と税金を賄う」
  • 適格か非適格かで手取りが大きく変わる(試算では約120億円差)
  • 米国「Buy, Borrow, Die」はステップアップ制度があって初めて成立する。日本では先送りにしかならない
  • 日本の相続税対策の基本は「評価を下げる」「先に動かす」「枠を使う」の組み合わせ

なお、これは一般的な制度説明であり、個別の税務・投資助言ではありません。

実際に動く場合は相続専門の税理士に試算を依頼してください。

次に続く↓


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